むねた裕之
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川崎市・公共施設の民間委託(PFI・指定管理)の問題点について

23年3月9日、予算審査特別委員会でのむねた裕之市議の「公共施設の民間委託」(PFI、指定管理)についての質疑を紹介します。

●質問

公共施設のPFI、指定管理者制度について、総務企画局長に伺います

・川崎市でも、小中学校の建設、スポーツ施設、給食センターなどがPFI事業となり、今後、公園の整備などにも導入予定ということです。

利用許可、料金設定についてです。

施設利用の許可や料金設定について権限は、どこにあるのか、伺います。

利用料金についてはどのように決められるのか、伺います

◎答弁

公の施設の管理におきましては、 PF1事業につきましても、指定管理者制度に基づき行っているところでございます。

利用許可につきましては、指定管理者は、市の指定により公の施設の管理権限を委任されるものでございますので、条例の定めるところにより、利用許可を行うことが可能となっているところでございます。

また、利用料金につきましても、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定める範囲内で、あらかじめ市の承認を受けた上で、指定管理者が定めるものとされているところでございます。

●質問

・施設利用の許可や料金設定の権限は、管理指定を受けた団体・企業に移り、それらの内容は条例で定めるということです。また、利用料金については、条例改定、協議が義務付けられていますが、協議の場で運営権者である民間事業者の意向に沿って、民間事業者主導で行われます。

民間事業者の意向のまま利用料金が値上げされているという問題が各地で起こっていますが、この問題をどうやって解決するのか、伺います。

◎答弁

指定管理者制度導入施設における利用料金につきましては、「受益と負担の適正化」の考えのもと、「使用料手数料の設定基準」に基づき設定された条例の定める金額を上限額として、あらかじめ市の承認を受けた上で指定管理者が定めるものでございますので、民間事業者の意向のままに値上げされることはないものと認識しているところでございます。

●質問

・利用料金は「設定基準に基づき上限額も決められる」ということですが、事業者としては、利益を出すためにできるだけ上限額ギリギリに設定することが考えられます。一方、市としては市民のためには安価な料金を設定するべきですが、この時、事業者の料金をどうやって妥当だと判断することができるのでしょうか?その判断は、どこまで事業者の情報、状態を把握、精査できるかにかかわってきます。

監査・情報公開についてです。

・利用料金が妥当かどうかの判断には、事業の詳細や運営権者の経営状態についての情報の開示が不可欠です。

監査、情報公開について、企業側にはどこまで義務があるのか、情報公開は、どこまでできるのか、伺います。

◎答弁

指定管理者への監査につきましては、地方自治法第199条第7項に基づき、監査委員は、指定管理者が行う公の施設の管理業務に係る出納関連の事務について、監査することができるとされております。

また、情報公開につきましては、川崎市情報公開条例第34条第1項におきまして、指定管理者は、当該指定管理業務に係る情報の公開に関し、市に準じた措置を講ずるよう努めなくてはならず、市は、指定管理者が適切な措置を講じるよう指導を行うこととしております。

●質問

・監査については、「管理業務にかかわる出納関連業務の監査ができる」、情報公開については、「市に準じた措置を講ずるよう努める」という答弁でした。ところが、PFIでは民間事業者の活動や経営状態についての情報公開が、全く保証されていません。情報公開の範囲は、「管理業務に限る」ということで、事業者の経営状態などは企業秘密ということで非開示とされる場合が多々あります。そのため、議会や住民が、民間事業者の活動や利用料金を民主的に統制することは極めて困難という指摘がされています。

事業の詳細や運営権者の経営状態についての情報をどのように公開させるのか、伺います。

◎答弁

指定管理者制度導入施設におきましては、定期のモニタリング、毎年度の年度評価及び総括評価などを通じまして、事業実績の報告や財務書類等の提出を求めているところでございまして、提出された内容につきましては、市職員だけでなく、学識経験者などにより構成される民間活用事業者選定評価委員会におきましても、業務の履行状況や経営状態の確認を行っているところでございます。

●質問

・事業の詳細、経営状態については、「モニタリング、事業実績の報告や財務書類等の提出、評価委員会でも、業務の履行状況や経営状態の確認を行っている」との答弁でした。しかし、同様のことを行っていても、全国で債務不履行や事業破綻、撤退する事業が相次いでいるのです。

・事業・経営状態の中でも特に、把握できていないのが、労働環境の問題です。

働いている労働者の労働環境についてです。

・市民サービスの質の面で、そこで働く労働者の状況にどうしても左右されます。一方、民間事業者が経費を削減し、かつ収益を上げようとすると、必然的に現場での公共サービスの担い手である労働者の処遇は大きく引き下げられる問題が出てきます。このためにPFIなどの現場では、非正規労働者が拡大しています。

非正規の職員が多い中で職員の専門性をどのように確保するのか、伺います。

賃金や人件費、労働条件はどのようにチェックするのか、伺います。

専門性の担保、適切な教育が保証されないこと、仕様書通りに人員が確保されていないことなどが問題になっていますが、こういうことが起こらないという保証はどこにあるのか、伺います。

◎答弁

施設の運用等に必要となる職員の専門性の確保につきましては、事業者公募時の仕様書などにお示しするとともに、運営開始後におきましても、モニタリングの中で、その基準を満たしているかを確認しているところでございます。

また、賃金等のチェックにつきましては、川崎市契約条例において、指定管理者と締結する公の施設の管理に関する協定を特定業務委託契約の対象としておりますことから、協定書に作業報酬に関する規定を設け、毎年度、作業報酬の額などを記載した台帳の提出を受けるとともに、履行確認を行っているところでございます。各施設が適切な市民サービスを提供するためには、施設の性質に応じた人員配置や専門性の確保は重要でございますので、モニタリングの継続的な実施などを通じて、これらを担保し、今後もサービス水準の維持向上に努めてまいります。

●質問

専門性の確保については「公募時の仕様書」「運用後はモニタリング」で行うという答弁ですが、全国では、仕様書通りに人員が確保されていない事例が多数出ており、重大な事故も起こっています。

・特に体育施設での人員配置、職員の専門性が不十分だったとして、2006年の埼玉県・ふじみ野プール事故や2011年の大阪泉南市の学校プールの事故などの死亡事故が起こっています。全国各地で、図書館への指定管理制度の導入について、職員の専門性の問題が指摘されています

・このようにPFIや民間委託した場合に、モニタリングを行っていても専門性の担保、適切な教育が保証されないこと、仕様書通りに人員が確保されていないことなどが問題になっており、仕様書通りに確保されるという保証はありません。

賃金について、「特定業務委託契約の作業報酬の規定で定める」「台帳で確認する」としていますが、この作業報酬下限額自体が最低賃金ギリギリの1086円です。事業者は利益を出すためにこの金額に近い賃金を設定します。これでどうやって専門性の高い労働者を確保できるのでしょうか。これをいくら台帳でチェックしても専門的な労働者の賃金を確保することはできません。

・東京都立病院のいくつかはPFI事業者に運営が委託されていますが、委託先は大企業グループでも実際の管理や作業は下請けや孫請けに委ねられ、現場の働き手は非正規労働者となっています。下請事業者は安さを競わされて頻繁に交替し、清掃に不備が生じた例も報告されています。このように低賃金とサービスの質の低下も懸念されます。

災害対応についてです。

・川崎市でも2019年の東日本台風の際、市民ミュージアムでの災害対応が問題になっています。川崎市の市民ミュージアムの検証報告書では、設備への浸水対策について「台風の予測進路を踏まえ、雨量等の予報を注視しながら、対策を開始する」とし、このほかに収蔵品の避難、施設スタッフの安全確保などが求められています。経費削減、収益確保が求められるPFI、指定管理では、正規職員が減らされ、非正規の方が運営の多くを担う職場になってきています。

非正規の方が多い職場で、これらの判断、避難、指導は誰が行うのでしょうか、伺います。

◎答弁

本市の指定管理者制度導入施設におきましては、「災害対応に関する方針」に基づき、市と指定管理者の協議のもと、「災害時の役割分担の明確化」、「災害時の避難計画や応急対策に関する計画の策定」、「実効的かつ効率的な訓練の継続的な実施」などを行うこととしており、災害時には、市と指定管理者がそれぞれの役割に応じ、協力して対応することとしております。

●質問

非正規の方が責任を負えるような仕事ではないと思いますが、見解を伺います。

◎答弁

災害時におきましては、事業者公募時の仕様書であらかじめお示しするりスク分担や「災害対応に関する方針」に沿った市と指定管理者の適切な役割分担のもと、利用者及び施設の安全確保や、各施設が果たすべき役割を確実に実施することとしております。

●質問

・指定管理者と協議をして「役割分担、計画の策定、訓練の実施」などを行って、災害時に備えるという答弁です。しかし、災害時、報告書にあるように「台風の予測進路を踏まえ、雨量等の予報を注視しながら、対策を開始する」という対応は、災害情報を把握することも必要ですし、市や区の危機管理部署との連携も必要です。計画書があったとしても、とても指定管理者が対応できるようなものではありません。ましてや非正規の方が対応できるものでもありません。

市民サービスの「債務不履行」についてです。

・全国各地で、PFI事業により、適正なサービスが提供されていない「債務不履行」の事例が多数報告されています。

21年5月、会計検査院が出したPFI報告書について、国の11の機関、57事業において「債務不履行」は何事業、何件あったのか、伺います。

◎答弁

令和3年5月に公表されました、会計検査院の「国が実施するPF1事業について」の報告書では、サービス購入型のPF1事業26事業において、平成30年度末までに、警備業務における「連絡の不備による入館手続の遅滞」等をはじめとする債務不履行が、計2,367件発生していたと報告されております。

●質問

・債務不履行は、国の11機関だけの調査でも57事業のうち26の事業で2367件あったことがわかりました。また、財務状況が悪化しているものや、公共施設を十分に利用できない状態が継続しているものもあったということです。国だけでもこれだけの債務不履行が起こっているのです。

契約通りの市民サービスが提供されていない事態がこれだけ起こっている中で、どのように債務不履行を防ぐのか、伺います

◎答弁

協定や仕様書に沿った適正なサービス提供がなされているかにつきましては、主にモニタリングの継続的な実施等を通じまして、サービス水準が確保されるよう確認しているところでございます。

モニタリング等の結果、課題が生じた場合につきましては、市と指定管理者の双方で、事態の把握に努め、情報を共有するとともに、両者で協力してサービス提供の停止やサービス水準の低下を最小限に留め、市の改善指導の実施により、サービス提供の迅速な回復・改善を図ることとしております。

●質問

・債務不履行を防ぐために「モニタリングや市の改善指導を行う」という答弁です。しかし、国でもモニタリングや改善指導は行っているのに、これだけ出ているのです。

事業継続についてです。

・全国では、PFI事業が継続できず、事業破綻、撤退の事例が相次いでいます。事例としては福岡タラソ・温水プールの撤退、北九州・ひびきコンテナターミナル経営破綻、名古屋港イタリア村破産など政令指定都市でも多くの問題が出ています。

事業破綻、事業からの撤退を防ぐために、どのような対策が取れるのか、伺います。

経営状況をどのようにつかみ、どのように事業破綻、撤退を防いでいくのか、伺います。

◎答弁

事業破綻や事業からの撤退を防ぐための対策といたしましては、事業者公募時にあらかじめ指定管理者とのリスク分担を明確にしておくとともに、定期のモニタリング、毎年度の年度評価及び総括評価等を通じ、定期的に事業者の財務状況を確認することなどにより、安定的な市民サービスの提供を図っているところでございます。

●質問

・事業破綻や撤退を防ぐために「リスク分担やモニタリング、財務状況を確認する」という答弁でした。しかし、先ほどの情報公開について「管理運営に限る」という限界があったように、財務・事業経営に関する情報は非開示が多いのです。そのため経営状況がつかみきれず、全国では事業破綻、撤退する事業が相次いでいるのです。

自治体と大企業との癒着についてです。

・特定の民間事業者が長期間にわたり膨大な利益を得るため、事業者としての地位に関連して、行政との癒着が問題になっています。

特定企業との癒着が全国でも問題になっていますが、自治体と大企業との癒着を防ぐための対策を伺います。

◎答弁

PF1事業などにおける民間事業者からの提案の審査等の事業者選定にあたりましては、これまでも公正性、透明性、客観性の確保の観点から、原則として、学識経験者などの第三者から構成される附属機関による審査を実施することとしているところでございます。

●質問

・北海道岩見沢市では、生涯学習センターの整備事業をPFI事業としました。ところが施設建設と完成後15年間の維持管理を担当することになった民間事業者が落札に先立ち、市長に対して5年間にわたり多額の政治献金をしていたことが判明しました。

・高知県高知市の病院PFIでも、2007年9月に元病院長が民間事業者からわいろを受け取る刑事事件が起きています。第3者の機関が審査するという答弁ですが、このようになかなか防げないのが実態です。

・市内事業者からもPFI事業に中小企業がなかなか参入できないなどの声が出ています。

中小企業の参入について、大企業の独占状況にならないための対策を伺います。

◎答弁

本市では、民間活用推進方針の中で、民問活用事業の実施にあたっては、市内事業者を積極的に活用することを基本姿勢として「地域経済活性化に向けた基本的な方針」を定めており、 PPPプラットフォームを形成し、市内中小企業者向けに情報発信、基礎知識の提供、及び多様な事業者との連携の場の創出などを行っているところでございます。

また、 PF1事業などの事業者公募を行う際には、 WT0適用案件の場合を除き、市内中小企業者の参画を要件とすること、又は加点事由として設定することなど、市内中小企業者の積極的な活用に向けて取り組んでいるところでございます。

●質問

・「PPPプラットフォームや公募時に中小企業の参画を要件とする」というと弁ですが、ぜひ、中小の参入の促進を要望します。

事故と損失補填の問題です

・PFIでは、設計・施工・管理を民間事業者に委ねているため、地方自治体が事故等の損失の分担をしなくてよいのかが問題となっています。

事故や損失の責任と分担はどのように決められるのか、伺います。

◎答弁

PF1事業の設計・施工・管理につきましては、その各段階に応じ、モニタリング等を通じた定期的な履行状況確認を行うことにより、安定的な市民サービスの提供 を図っているところでございます。

万がー、事故等が生じた場合につきましては、事業者 公募時にあらかじめお示ししたりスク分担に基づき、その事故等が市と事業者のどちらに起因するかなどを判断 の上、それぞれの役割を果たすこととしております。

●質問

・「設計・施工・管理の各段階でのモニタリング」「公募時のリスク分担」に基づき対応するということです。しかし、事前に分担の定めをしようとしても限界があり、折衝や協定は極めて困難であり、地方自治体の責任は免れないのが一般的です。

・仙台市の「スパスポーク松森」は、ごみの焼却熱を利用した温水プールで、仙台市で初めてのPFI事業であり、民間事業者に設計仕様を委ね、他の公立プールとは違う曲面の天井が設置されました。しかし、2005年の宮城沖地震でその天井が崩落し、多数の住民が重傷を負う事故が発生。従来の行政が設計する箱形のプールでは同じような地震での崩落事故は起きておらず、この事故は不十分な検査で手抜き工事を見抜けなかったことが原因とされました。市の賠償責任が問題となり、最終的には仙台市が賠償を負担することになりました。このように、いくら公募時にリスク分担し、モニタリングしても自治体の責任は免れないのが通例です。

(まとめ)

このように公的施設の民間委託は、利用料金の値上げ、情報公開や労働条件の悪化、市民サービスの低下につながり、さらに事業の撤退、企業との癒着、事故や損失補填などの問題が全国で多発しています。

・PFI事業について、検査院は、繰り返し同じような債務不履行が起きているとして契約元の国の機関に対して再発防止、改善を求め、指定管理制度について、総務省は「指定管理者制度の運用について、・・留意すべき点」として「公共サービスの水準の確保」「住民の安全確保に十分配慮」「指定管理者が労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮」などが必要と指摘。片山総務大臣は記者会見で「公共図書館、学校図書館は指定管理になじまない。きちっと行政が直営でスタッフを配置して運営すべきだ」「結果として官製ワーキングプアというものをずいぶん生んでしまっている」と述べるなど、政府も一定の歯止めをかける通達や発言をしています。

(要望)

・現在のPFI、指定管理制度を導入している事業について、債務不履行の調査を行うこと。情報公開の透明性、公共サービスの水準、住民の安全性などの確保と雇用・労働条件の改善を要望します。