むねた裕之
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川崎市臨海部ーJFE土地利用転換に数千億円規模、キングスカイフロントの検証と水素戦略の見直しを

23年度3月・川崎市議会の日本共産党・代表質問で、むねた裕之市議団長が質疑を行いましたが、その内容をお知らせします。

●質問

臨海部の大規模事業についてです。

23年度、臨海部関連の予算は港湾費で一般会計、特別会計合わせて145億円と臨海部国際戦略本部の予算11億円などが計上されています。この中には、臨港道路東扇島水江町線整備、コンテナターミナル整備事業、東扇島堀込部土地造成事業など不要不急の事業に約74億円が計上されています。さらに撤退縮小する企業に奨励金を出す投資促進事業やJFE高炉休止による大規模土地利用推進の取組も始まり、川崎縦貫道路整備事業費の予算も計上されています。喫緊の課題であるコロナ対策や物価高騰対策の市独自予算が、ほとんどない中で臨海部の大規模事業には大きな予算を振り向けています。

JFE高炉休止に伴う土地利用についてです。

2023年9月に予定されているJFEスチールの高炉休止に伴い、税収や雇用など川崎市の施策に多大な影響を及ぼすことから、高炉休止までに土地利用方針を策定するとしています。この土地利用転換の対象範囲は、400haでキングスカイフロントの10倍、跡地利用としては市がかつて経験したことのない広さとなっています。

市の計画では基盤整備については、扇島との交通アクセス、鉄道、大水深バース、空飛ぶ車発着場、大規模展示場などが検討されています。これらの基盤整備がどれだけかかるかは明記されていませんが、既存の事業費やこれまでの事業見込みでみてみると、例えば、交通アクセスとしては臨港道路東扇島水江町線のような橋を作れば約1500億円、鉄道では川崎アプローチ線で約300億円、バースの拡張にしても一般的には300億円規模でかかるとされています。さらにキングスカイフロントでは、土地購入のために69億円、過去には水江町の土地購入に238億円が投入されました。この他にも企業誘致のための投資促進制度や研究所の立地支援補助制度もあり、ざっと試算しても数千億円の規模です。この事業に対して、いったいどれだけの市費が投入されるのか、伺います。

◎答弁

昨年11月に公表いたしました「土地利用に係る基本的な考え方」におきましては、扇島地区の地理的優位性 などを活かして、平時は川崎臨海部の発展だけではなく、我が国の重点課題の解決と国際社会におけるプレゼンスを高め、有事は首都圏を守る要となることを目指すとしており、公共性・公益性の高い土地利用の実現に向けて取組を進めているところでございます。 現在、本年9月の高炉等休止までの「士地利用方針」策定に向けて、国やステークホルダーとなる民間事業者、地権者等と導入機能や必要となる基盤の具体化と、それらの整備主体について検討・調整を行っており、税収などの効果も考應しながら、役割分担や想定される事業費 について整理してまいります。

●再質問

JFE高炉休止に伴う土地利用についてです。              【市長】

「400haの跡地利用にはいったいどれだけの市税が投入されるのか」という質問に対して、「税収などの効果も考慮しながら、想定される事業費を整理する」という答弁でした。要するに事業費も経済波及効果も試算さえしていないとのことです。この間、JFEと同じようにいすゞ自動車が撤退して、その跡地利用として、市はキングスカイフロントに巨額の市費を投入してきましたが、この検証はしてきたのでしょうか。

キングスカイフロントの経済波及効果についてです。

キングスカイフロントの企業誘致は、ほぼ完了して数年たちましたが、この5年間で、臨海部のある川崎区の法人市民税は、税率引き下げやコロナの影響もありますが、25億円減少し、10年間で製造業の事業所数は116減少、従業員数も1670人減少しています。経済波及効果は、川崎区ではまったく表れていないどころか、マイナスとなっています。

当初、市はキングスカイフロントの経済波及効果について、個人・法人税収、固定資産税収など10年間で120億円を見込んでいましたが、実際、誰が持っていようと変わらない固定資産税や建設時の効果額を除くと、経常的に市にはいってくる税収増は年間5300万円程度です。償却資産による税収増や羽田連絡道路に伴う固定資産税の増収分を入れ、市の見込み通りいっても税収増は年間2.2億円です。

一方、川崎市はこれまでに、土地の購入、羽田連絡道路の市負担分、「神奈川口構想」の利子負担分など合計180億円もの税金を投入しています。税収増が年間2.2億円あったとしても、市が投入した180億円の税金を回収するのに80年以上かかります。こんな状況でキングスカイフロントの10倍もの土地利用転換を進めるのでしょうか。JFEの土地利用整備をする前に、キングスカイフロントでの経済波及効果の検証をやるべきと思いますが、市長に伺います。

◎答弁

キングスカイフロントの拠点形成につきましては、ライフサイエンス分野における最先端の研究開発や、製品化を行う企業等の誘致を進めることにより、70の研究機関等が集積し、就労者は約5000人、その中でもライフサイエンス分野の就労者は約1600人と、雇用の創出や産業の活性化に大きな成果を生み出してまいりました。 また、昨年3月には多摩川スカイブリッジが開通し、ハネダグローバルウイングズとの連携が強化されるとともに、羽田空港と直結したことで、世界とのビジネスチャンスが広がるなど、エリアの価値は一層高まっております。今後とも、キングスカイフロントが市内、さらには我 が国の経済発展を牽引する拠点となるよう、取組を進めてまいります。 また、今回のJFEスチール株式会社の高炉等休止に伴う大規模な士地利用転換は、我が国の未来を左右する大きな事業となりますことから、国や関係企業等と連携し、着実に取組を進めてまいります。

●再々質問

JFE高炉休止に伴う土地利用についてです。              【市長】

キングスカイフロントでの経済波及効果が表れていないことを示し、「効果の検証をすべき」という質問に対し、「研究機関が集積し、就労者は約5000人」という答弁でした。当初は、先端産業を誘致することにより、川崎区の雇用や製造業など市内中小企業の仕事にもつながり、税源培養にもなるとして、市場創出額14兆円、雇用創出が約23万人としていました。しかし、現実には川崎区の製造業の事業所数や従業員数にもつながるどころかマイナスで、市内中小の仕事につながったのはわずか2件しかなく、税源培養の検証もしていません。

臨海部のカーボンニュートラルについてです。

この土地利用転換の目的について「我が国の未来を左右する大きな事業となる」という答弁でした。市は、未来を見据えた計画として「水素を軸としたカーボンニュートラル」を位置付け、土地利用転換の主要な計画の中で、輸入水素の貯蔵施設や港湾整備をあげています。

しかし、水素を軸としたカーボンニュートラルというのは世界的にも異例で、世界的には再エネは、太陽光や風力が中心です。しかも、国際エネルギー機関(IEA)やG7では、電力部門のCO2排出量を2035年までにゼロにすることが求められており、川崎市の排出量の約半分を占める発電所からのCO2をゼロにすることが喫緊の課題となっています。

まず、達成期限の問題ですが、市や電力会社は、発電所において天然ガスに水素を混ぜる混焼から水素のみの専焼への転換で、2050年までにCO2ゼロにするとしていますが、これでは2035年までにはとても間に合いません。

さらに輸入水素の発電コストの問題ですが、資源エネルギー庁の試算では、2020時点では1キロワットアワー当たり97円もかかり、欧州の太陽光の発電コスト6.8円と比べて10倍以上も高く、とても現実的とは言えません。

エネルギー自給率の問題でも、現在、輸入天然ガスが高騰し、エネルギーを海外に依存することが大きな問題になっています。そんな時に、水素を海外から輸入することは、エネルギー自給率、電力コスト、電力部門のCO2ゼロの期限から見ても、「水素を軸としたカーボンニュートラル」は見直すべきです、市長に伺います。

◎答弁

2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けましては、世界的に様々な動きがあり、我が国においてGX実現に向けた基本方針の検討などが進んでいるところでございます。 現在の川崎臨海部は首都圏へのエネルギー供給拠点でございますが、カーボンニュートラルな社会においてもその役割を果たしていくためには、発電などの大規模な 水素需要を創出しながら、水素等のカーボンニュートラルなエネルギーの供給拠点へと変革していく必要がございます。また、国においては、既存燃料とのコスト差やインフラ整備などのあり方を踏まえた支援措置の検討が進められており、さらに、エネルギー関連企業におきましても、 既に川崎臨海部で水素の利活用に向けた取組が進められていることから、こうした取組と連携を図りながら、全国に先駆けたカーボンニュートラルコンビナートの形成 に向けた取組を着実に進めてまいります。

●最終意見

JFE高炉休止に伴う土地利用と臨海部のカーボンニュートラルについてです。

「水素を軸としたカーボンニュートラルは見直すべき」という質問に対して、「国やエネルギー関連企業において、水素の利活用に向けた取組が進められているから」水素を軸として進めるという答弁でした。しかし、日本の水素、アンモニアを石油や石炭に混ぜて使用する混焼というやり方は、石油や石炭火力を延命する方法として、世界から批判されています。そんな国やエネルギー関連企業の戦略に沿った水素戦略は、あらためて見直し、カーボンニュートラルというのであれば、太陽光中心の再エネ戦略と土地利用転換を進めるべきことを強く求めておきます。