むねた裕之
むねた裕之むねた裕之

不要不急の大規模事業を中止し、政令市トップの財政力を市民の福祉・暮らしに使う市政に

(川崎市に提出した23年度予算要望書の内容です)

不要不急の大規模事業の総事業費と22年度の予算

福田市政は「財政が厳しい」と言いながら、不要不急の大規模事業は推進しています。不要不急の大規模事業費は、臨港道路東扇島水江町線に1475億円、東扇島堀込部埋立事業に約240億円、川崎アプローチ線事業に約300億円、完成した羽田連絡道路約300億円などを含めると総額約2315億円にも上ります。2022年度予算では、港湾費は一般会計、特別会計合わせて163億円、臨海部国際戦略本部の予算13億円が計上され、この中には、臨港道路東扇島水江町線整備に61億円、コンテナターミナル整備事業に17億円、東扇島堀込部土地造成事業は12億円増の19億円など不要不急の事業に約100億円が計上されています。さらに臨海部から撤退縮小する企業に奨励金を出す制度が含まれている臨海部投資促進事業も始まりました。この制度により、撤退を計画しているJFEスチールは最大27億円の奨励金を受け取ることになります。また、ナノ医療イノベーションに対しては市が14億円で取得した土地を今後30年間無償で貸与するなど、臨海部の大企業に対しては至れり尽くせりの優遇措置が取られています。

臨港道路東扇島水江町線

臨港道路東扇島水江町線は、事業費が2019年に540億円から980億円に、さらに22年、1475億円へと当初の3倍に増額されました。事業費の変更について、980億円から1475億円という莫大な増額なのに、事前に個別の事業について契約金額など知りえたのに国に問い合わせることもなく、市長は議会にも市民にも報告もせずに了承しました。国の意見照会については、国が決定するまで総額を非公開とするなど地方自治を無視するやり方についても、一言も国に物を言わず、結局、国言いなり、市長独断で了承したということです。

事業費増額の要因について、橋梁、橋脚下部の軟弱地盤、湧水の発生、橋梁の施工変更や補強というのが主な理由です。しかし、湧水が発生したのは2018年であり、軟弱地盤が判明したのは工事着手後の2019年であり、橋梁の強度が足りないと判明したのも2019年です。それから2年以上もたった今年7月に初めて事業費の変更を知ったように説明していますが、それまでに国に事業費の概算は問い合わせもしなかったのです。軟弱地盤や橋梁の強度など綿密なボーリング調査や構造設計の段階で分かりえたはずですが、このような地盤、構造の調査不足に対して、国の不備だと指摘もしなかったとの答弁でした。

事業の必要性についても、当初、コンテナ取扱量40万TEUを理由にしていましたが下方修正され、この間の取扱量の実績でも17万TEU、14万TEUと減少しており、とても必要だという根拠にはなっていません。「緊急物資輸送ルートの多重化」という理由についても、震災時、この橋を渡って石油コンビナートが集積し、浸水地域である水江町を通るということは、かえって危険であり、避難路とすべきではなく、事業の必要性の根拠にはまったくなりません。

このように不要不急の事業であっても、どんなに事業費がかさんでも、議会にかけることなく、市民にも知らせることなく独断で推進する姿勢は、市長の姿勢として厳しく問われるものです。不要不急の大規模事業は中止・凍結をし、市民の福祉・くらしを最優先にする市政に変えることを強く求めます。

22年度一般会計予算―財政力は政令市トップ

新年度一般会計予算の規模は、前年度比577億円増の8785億円で8年連続、過去最大。市税収入は、前年度比217億円増の3671億円で、これは個人市民税が88億円増、法人市民税が43億円増、固定資産税73億円増などによるものです。財政力指数は、政令市トップで、新年度は普通交付税・不交付団体になる見込みです。財政健全化指標は、すべて基準値を下回っており、極めて優良。2020年度決算で他の政令市と比較して、一人当たりの市債残高は、政令市の平均よりも12万円低く、借金の負担額が少ないのが特徴です。川崎市の人口増加率、生産年齢人口割合ともに政令市で最も高く、人口推計でも今後8年間は増加を続けるため市税収入の増加は今後8年間続くと予想されます。このように、市税収入、財政力指数、財政健全化指標のどれをとっても、川崎市は政令市でトップクラスの財政力を持っており、今後8年間はさらに財政力はアップすると見込まれます。

市税収入の構成―半分は個人市民税、法人からの税収は極端に少ない

市税収入についてですが、新年度予算では、個人市民税1738億円、法人市民税151億円、固定資産税1314億円が計上されています。市税の構成比を政令市で比較すると20年度決算では個人市民税は48.3%で政令市の中で上から2番目、法人市民税は4.3%で下から2番目です。川崎市は政令市の中で、極端に市民からの税収に依存しており、法人からの税収が極端に少ない都市となっています。

減債基金―政令市平均より500億円多い基金をコロナ対策、福祉・くらしに使うべき

減債基金残高は、一般会計分でみると積立額452億円、取崩額219億円で2529億円となり、一人当たりの残高は政令市平均の1.7倍にもなります。政令市の減債基金残高は、取崩額の平均4年分ですが、本市は9年分にもなり、他都市と比べて極めて多い残高となっています。22年度の借入総額は850億円の見込みですが、減債基金の残高から借入総額を差し引いた実質残高は約1679億円です。この金額は、取崩額の4年分という他政令市平均と比較すると約500億円多い残高となります。さらに減債基金残高は、毎年100億円以上積み増しされて6年後には約3400億円。川崎市の市税収入と同じ規模となり、政令市平均よりも1000億円以上も多くなります。借入額を差し引いた実質残高でも他都市と比べて極めて多いわけですから、減債基金からの借入を理由に財政が厳しいとは言えません。今はコロナという非常時なのですから、毎年約400億円前後の積立額を減らし、コロナ対策、福祉・暮らし、防災のために使うべきです。

1人当たりの個人市民税は政令市平均より3万円高いのに福祉予算は1万円少ない

この間、「財政が厳しい」という理由の一つに社会保障費、特に扶助費の増大を挙げています。扶助費は、新年度予算では前年度比89億円の増ですが、これは保育事業費や障害福祉サービスのためにどうしても必要な費用であり、増加した部分のほとんどは国や県からの補助で賄われるので、扶助費の一般財源の比率である経常収支比率は20年度決算では19%にすぎません。経常収支比率は5年前と比べてもほとんど変わらず、扶助費は増えていません。しかも、一人当たりの扶助費の額は引き続き政令市平均を下回っており、福祉予算である民生費も1人当たりにすると政令市平均より約1万円も低い状況です。一方、一人当たりの個人市民税は、政令市平均より約3万円高く、政令市トップです。個人市民税は政令市で最も高いのに、その税収が福祉・暮らしには十分還元されていないのが特徴です。

中小企業予算―予算のわずか0.1%

中小企業の支援・商業振興予算は、83億円減の226億円であり、融資を除いた予算は11億円のみで、一般会計予算のわずか0.1%です。市内事業者の99%、雇用の7割を占め、コロナで最も被害を受けている中小企業に対する予算としてはあまりにも少なすぎます。

コロナ関連予算―市独自支出はわずか30億円、

新年度予算は、今年度からの繰り越しを含めると440億円計上されていますが、市独自支出額は37億円です。さらにここから融資、コロナ後の対策費を除くとわずか30億円にしかなりません。その中にも、今一番必要な中小企業への給付金や医療機関への財政的支援はほとんどありません。国や県から給付されるからという理由ですが、中小企業への給付金にしても事業復活支援金は以前の持続化給付金の半分程度。医療機関への支援についても、人材が集まらず発熱外来への補助金は逆に打ち切られ、診療報酬も下げられています。単身非正規の労働者への財政支援は待ったなしの状況です。

臨時交付金を使って中小企業、非正規労働者、医療機関への支援を

地方創生臨時交付金は、32億円交付されています。21年度3月補正については保健所設置や妊婦ウイルス検査、学校の衛生対策に1億円。22年度予算ではPCR検査体制、コールセンター運営費、医療機関への入院患者受け入れ補助、各施設感染対策、文化芸術活動、テレワーク・市内宿泊施設の利用促進などに11億円で総計12億円が計上されています。残りの20億円は22年度の補正予算として支出するとしています。コロナ禍で経営が厳しい中小企業、仕事が減った非正規労働者、コロナ感染者の急拡大で対応が大変な医療機関に対して、臨時交付金を使って緊急の財政支援をするべきです。

総合計画―行革の根拠(人口減少、財政、扶助費)は全て崩れている

総合計画では、人口減少、「厳しい財政環境」、扶助費の増大などを前提として行財政改革、資産マネジメントを推進するとしています。しかし、人口は今後9年間増え続け、今の人口よりも減少するのは30年後です。財政については、政令市トップの財政力を持ち、減債基金の残高から見ても財政が厳しいという根拠は一つもありません。扶助費の増大という理由も成り立ちません。これらを理由に行財政改革で福祉を削減したり、資産マネジメントで市民の土地、財産を売却すべきではありません。

不要不急の大規模事業は削り、政令市トップの財政力を市民の福祉・暮らしのために

 川崎市の財政は財政力は政令市でトップを続け、コロナ禍でも十分な財源を確保しており、今後、約1000億円は使用可能な財源(減債基金)を持っています。しかし、この豊かな財政は、臨海部の不要不急の大規模事業に22年度予算だけでも100億円以上使われており、市民の福祉予算は、政令市平均より低い状況です。

 予算議会において予算組替え提案で示したように、不要不急の大規模事業を中止・凍結し、減債基金積立額の一部を使った166億円の財源で、以下のような支援が可能です。小児医療費を中学生まで無料化(20億円)、認可保育園の10か所増設と幼稚園の入園料1人10万円(18.7億円)、少人数学級を小4から中3まで実現(9億円)中小企業の固定費補助とリフォーム助成(4億円)、コロナ協力病院への1か所1億円財政支援(24億円)、特養ホーム5か所増設(4.1億円)介護保険料の減額(19.3億円)、国保料子ども均等割り免除(28億円)、障がい者市単独定率加算の復活(3億円)などが実現できます。不要不急の大規模事業は中止・凍結をし、減債基金の積立額を減らして、新型コロナへの市独自支援や市民の福祉・暮らし予算を拡充することを求めます。

1. 川崎港コンテナターミナルなど港湾施設の整備計画にあたっては、他港コンテナ港湾の施設規模・能力などもよく調査研究し、本市の既存施設の取扱能力などを厳格に検証し、これ以上の施設拡張を行なわない。

2. 川崎港コンテナターミナルのコンテナ取扱量のうち空コンテナが増大する経済的要因と、今後の見通しを調査・検討するとともに、台風等による暴風・高潮、大地震と津波など災害時の被害・影響などを想定し、必要な安全対策を講じる。

3. 港のニーズ、荷物があればコンテナ船は来るのであり、際限のない税金投入を続ける悪循環となっている川崎港利用促進コンテナ貨物補助制度は見直しをする。

4. 2010年、川崎市、横浜市、東京都の3自治体が共同で「京浜港国際コンテナ戦略港湾計画」を発表し、国から「国際コンテナ戦略港湾」に選定されました。しかし、この総事業費見込額は約5500億円で、川崎港だけで約1000億円かかるとされました。この国際コンテナ戦略港湾政策の中止・見直しを国に求めるとともに、川崎市・川崎港は京浜3港の国際コンテナ戦略港湾計画から独自に撤退すること。

5. 千鳥町、東扇島など川崎港での輸出自動車(新車、中古車)の保管状況、及び、他港への横持ち台数、川崎港からの直接輸出台数などの実態を把握し、輸出自動車保管を川崎港で行なう必要性について根本的に再検討する。

6. 東扇島堀込部埋立土地造成事業については、同堀込部の公有水面は市民の財産であり、埋立土地造成をしなければならない正当な目的・理由が立証されないことから、ただちに事業を中止する。JR東海と川崎市の覚書を撤回し、JR東海に対して東扇島堀込部へのリニア建設残土の受け入れを断ること。

7. リニア中央新幹線整備計画は、市内外で環境破壊をもたらし、運行後災害時の危険性が極めて高く、ルート上の多くの地権者の権利を侵害するなど問題が多すぎる不要不急の大規模事業であり、公的資金を投入して推進する国、およびJR東海に中止を要請する。

8. 臨港道路東扇島水江町線の整備工事をただちに凍結し、今から事業の善後策を検討する。

9. 「国家戦略特区」キングスカイフロントのライフイノベーション構想の研究開発拠点の整備・運営に対する公的支援・税金投入は中止する。

10. ナノ医療イノベーションセンターの「立ち上げ期間の支援」での事実上の研究費支援はやめる。

11. 1メートル1億円以上とばく大な事業費がかかっている高速川崎縦貫道路の整備工事は、現在の1期ルートの本体の残工事を中止する。公害まき散らし・まち壊しの現行の2期ルート計画も中止する。東京外郭環状道路との一体化でも、ばく大な事業費がかかることが想定され、2期ルートの計画自体を中止する。

12. 『臨海部ビジョン』で打ち出された、最低300億円かかる新たな鉄道整備「川崎アプローチ線」計画は、住民犠牲のまちこわしとなり、住民ニーズも採算性もないことから、計画を白紙撤回する。

13. 臨海部を中心とする不要不急の大規模開発を中止・見直して、全国トップクラスの川崎市の「豊かな財政」を市民の願い実現と市民生活・福祉の向上・充実に生かす市政運営に改める。まずは喫緊の課題であるコロナ対策、そして少子化、災害対策を抜本的に強化する。

14. 公共事業への投資のあり方を、市民生活に関係なく地域経済が循環しない現在の臨海部での不要不急の大規模開発優先(巨大な橋の建設、川崎港コンテナターミナル拡張、住民ニーズのない鉄道整備など)ではなく、市民の願いに応えて地元建設業者の仕事と雇用が増え、地域経済が循環する、認可保育園・特別養護老人ホームの大量増設、老朽校舎の改築など市民生活・福祉型投資優先に抜本的に切り替える。

15. 総合計画について、福祉切り捨て、市民サービスの削減、市民負担増の「行財政改革」は中止をし、市民の土地、財産を民間に売却する「資産マネジメント」は見直しをすること。