むねた裕之
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川崎市・臨港道路東扇島水江町線―「総事業費980億円→1475億円」を市長は独断で了承

9月13日、川崎市議会第4回定例会における日本共産党・代表質問で「臨港道路東扇島水江町線について」取り上げたので、その質疑を紹介します。

●質問

臨港道路東扇島水江町線についてです。

7月28日に環境委員会で、臨港道路東扇島水江町線の事業費の変更が報告されました。国土交通省、関東地方整備局の事業評価監視委員会の資料によると、事業は、現行の980億円から1,475億円と495億円の増額になり市負担分も165億円の増額となります。2009年当初の事業費540億円から比較すると事業費は3倍近くになります。増額の理由は、構造・施工計画の見直しで283億円、安全対策強化のための施工計画の見直しで75億円、工事進捗に伴い判明した現場条件の不一致による137億円などの要因によるものです。議会に知らされたのは、7月28日でこの時にはすでに国の事業評価監視委員会における「事業費の了承」「継続」の決定が出た後でした。このような莫大な費用の増額について、また議会や市民にも知らせずに、国や市が決定したことについて、多くの市民から疑問や不満の声が出ています。

事業費の変更についてです。

7月4日に国から市長に意見照会があり、市長は15日に回答し、それを受けて事業評価監視委員会は川崎市が「了承した」と判断して25日に対応方針が原案通り決定しました。市からの回答内容は「事業費の増加は誠に遺憾」とは述べているものの「周辺環境に配慮して工事を実施されたい」と国の対応方針について了承しています。2019年、前回の事業費の変更の際にも、市長は議会にも市民にも知らせずに540億円から980億円への増額に対して、市長独断で了承してしまいました。わが党は、前回と同様、今回も国交省からこの事業について聞き取りをしてきましたが、国交省は「市長からの意見を受けて、審査会は継続と判断をした」ということです。前回も市の意見照会について、国交省は事業継続を判断するための「正式な手続き」であり「総事業費の了承も含むものだった」と述べています。さらに、国交省は、いきなり事業費の変更を出したのではなく「今年の4月から市と綿密な協議を重ねてきた」とも述べています。なぜ、市の意見照会を出す前に国との協議内容や事業の状況を議会に報告しなかったのか、これで議会への説明責任を果たしているといえるのか、市長に伺います。これだけ多額な事業費の変更を2回にわたって議会にも諮らず市長独断で了承したことについて、議会への説明、了解は必要ないと判断した理由は何か、市長に伺います。

事業費増額の要因についてです。

橋梁、橋脚下部の軟弱地盤、湧水の発生、橋梁の施工変更や補強というのが主な理由です。しかし、湧水が発生したのは2018年であり、軟弱地盤が判明したのは工事着手後の2019年であり、橋梁の強度が足りないと判明したのも2019年です。それから2年以上もたった今年7月に初めて事業費の変更を知ったように説明していますが、それまでに国に事業費の概算は問い合わせなかったのか、伺います。軟弱地盤や橋梁の強度など綿密なボーリング調査や構造設計の段階で分かりえたはずです。このような地盤、構造の調査不足に対して、国の不備だと指摘したのか、伺います。このようなずさんな構造、施工変更による事業費の増額について、国が負担すべきと要求したのか、伺います。

◎答弁

本事業は国の直轄’事業であの、国が開催する有識者から,なる事業評価監視委員会において、事業の継続などについて審議されるものでございます。

本事業については、本年4月に国士交通省関束地方整備局から、事業費の、増額等につながりうる事象が発”生しているとの連絡があった、旨、港湾局か学服告を受け、その際に、国と協力してコスト縮減策等を検討するよう指示をいたしました。

また、事業費の具体的な変更額については、本年7月4日の事業評価監視委員会に向けた意見照会の際に、国から示されましたが、委員会開催までの問は、精査を続けていくため非公開とされていました。

このため、「事業期間の延長や事業費の増加は誠に遺臓であり徹底した工期短縮やコスト縮減を強く要請する」等の意見を国に回答するとともに、議会に速やかにお伝えするため、事業主体である国の事業評価監視委員会の直後の、環境委員会に報告をさせていただいたものです。

◎答弁

事業費の増額要因となっているもののう”ち、湧水が生したこと、地中埋設物が判明したこと等については、本市も把握しておりましたが、事業費に与える影響額については、事業主体であっても直ちに算出できるものではなく、また、国は並行してコスト縮減策も検討されていたことから、必ずしも事業費の変更につながるとは考えていなかったところでございます。

次に、国が実施したボーリング調査や設計についてでございますが、道路橋に関する基準に基づき設計に必要なポーリング調査等が行われましたが、ボーリング調査を実施したポイントより地盤が軟弱な施工箇所があったこと等から、追加工事が必要となったものであり、ボーリング調査や設計の不備ではないと考えております。

また、事業費の負担についてでございますが、国が事業主体となる臨港交通施設の建設については、事業費の3分の1を市が負担することが、港湾法第52条において定められているところでございます。

●再質問

事業費の変更についてです。

「なぜ、市の意見照会を出す前に議会に報告しなかったのか」という質問に対して、「事業費の変更額については非公開とされていた」という答弁でした。しかし、総額が非公開であっても、個別の工事の契約金額についてはそれ以前に知りえたはずです。前回の事業費変更の際、橋脚位置の変更などで大幅な事業費増額がされましたが、国交省によるとそれぞれの橋脚の契約はその3年前に行われ、契約金額も決まっていたとのことです。今回、川崎市は、個別の事業の契約金額について国に問い合わせもしなかったとのことですが、事前にこれらの事業費を問い合わせて議会に報告すべきではなかったのか、市長に伺います。

今回の国の対応について、事業費変更は国で決まるまで非公開とし、決まった後で公開するというものでした。これでは地方議会での議論の余地は全くなく、国で決まったから財政負担をせよということになり、地方議会をあまりにも軽視した対応ではないでしょうか。地方自治の原則を踏みにじるような国の対応に対して、市長は議会での論議を保障すべきと指摘したのか、市長に伺います。

◎答弁

個別の工事の契約金額についての国への問合せについてでございますが、本事業は国の直轄事業であることから、工事に係る契約などの手続きについては国の役割と認識しております。

一方、本事業の事業費については、本市の負担に直結することから、事業評価監視委員会に向けた国からの照会に対し、「事業費の増額は誠に遺憾である」とするとともに、「徹底したコスト縮減を強く要請する」などの意見を提出したところであり、引き続き、国に要請してまいります。

次に、今回の国の対応についてでございますが、事業評価監視委員会は、事業主体である国が、事業の継続等について有識者からなる委員会において審議するものでございます。本事業については、この委員会において継続が了承されましたが、本市が負担する事業費につきましては、毎年度の予算として議会にお諮りすることになります。

●再々質問

事業費の変更についてです。

 「個別の事業について事前に説明すべき」、「国で決まるまで総額は非公開」という国のやり方についても、答弁は「国が審議するもの」ということで、国に問い合わせもせず、指摘もしなかったということです。あまりにも国言いなりの姿勢です。

事業目的についてです。

 市長は意見照会の中で3つの理由で事業を進めると述べています。「物流機能の強化」という理由ですが、当初、コンテナ取扱量が「2027年までに年40万TEU」になるから必要という理由でした。しかしコンテナ取扱量は直近で13万TEUとなっており、目標の1/3にも達していません。国交省の資料では東扇島内の渋滞状況を示し、交通混雑を理由にしていますが、内陸部に通じる肝心のトンネル内では渋滞は発生していませんし、東扇島から内陸部への交通量が増えたという論拠もありません。「緊急物資輸送ルートの多重化」、「防災機能の強化」も理由にしています。市は内陸部へのルートを橋で確保するとしていますが、震災時、この橋を渡って石油コンビナートが集積し、浸水地域である水江町を通るということは、かえって危険であり、避難路とすべきではありません。このように当初の事業目的が次々と破綻し、今の目的も説得力がない状況で、市費総額500億円もつぎ込むこの事業は推進すべきではありません、市長に伺います。

◎答弁

臨港道路東扇島水江町線は、臨海部ネットワークの充実による物流機能の強化及び内陸部と基幹的広域防災拠点とを結ぶ緊急物資輸送道路のリダンダンシー確保等による防災機能の強化を目的とする重要な社会資本となるものであり、東扇島等の周辺事業者や道路利用者が1日も早い開通に寄せる期待は大きなものがあります。

このため、国に対しては徹底したコスト縮減などとともに、早期供用を求めてまいります。

●最終意見

980億円から1475億円という莫大な事業費の変更について、事前に個別の事業について契約金額など知りえたのに問い合わせることもなく議会にも市民にも報告はありませんでした。事業費増額の要因については、地盤、構造の調査不足、国の不備でもあるのに指摘もしておらず、事業目的についても、当初の事業目的が次々と破綻し、今の目的も説得力がないのに、「1日も早い開通を」と了承したことが明らかになりました。国の意見照会については、国が決定するまで総額を非公開とするなど地方自治を無視するやり方についても、一言も国に物を言わず、結局、国言いなり、市長独断で了承したということです。

市民に対しては「財政が厳しい」と言いながら、臨海部の大規模事業については、いかに不要不急の事業であっても、どんなに事業費がかさんでも推進する姿勢は、福祉の増進という地方自治の本旨に逆行するものであり、市長の姿勢として厳しく問われるものです。不要不急の大規模事業は中止・凍結をし、市民の福祉・くらしを最優先にする市政に変えることを強く求め、質問を終わります。