むねた裕之
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川崎市・14人が亡くなった幸区の高齢者クラスター―厚労省の見解と明らかに違う対応

9月14日、21年第3回定例会(9月議会)において日本共産党・渡辺議員が代表質問を行いました。その中の「幸区の高齢者施設でのクラスターについて」の質疑を紹介します。

【質問】

幸区の高齢者施設でのクラスターについて、市長に伺います。

市は福祉施設に対して、2月と4月に陽性者が出た場合の入院調整に関する通知を出しました。5月末に、その通知に従った幸区の高齢者施設で49人の方が新型コロナに感染し、14人の方が亡くなるという重大事態が起こりました。23人の方が入院措置されず、8人の方が重症化しても入院措置されず施設内でなくなりました。この事例について看過できない2つの重大な問題点があります。

第1は、病床がひっ迫していないのに入院措置をせず、陽性者は入院という原則が破られたということです。県の「高齢者福祉施設における対応の手引き」では、「陽性が確認された場合、原則は入院」と書かれており「県内病床が逼迫状況」の時に「当該施設での療養をお願いする場合がある」と述べています。陽性が確認された時点で入院が原則です。この当時、県内のコロナ病床使用率は30%台とひっ迫していませんでした。それにもかかわらず、市は23人の方を施設内療養として入院措置せず、さらに重症化しても入院措置されずに亡くなった方が8人も出たのです。この対応は県の指針にも反しており、施設内での感染を広げる危険性があり、その他多くの高齢者の命を危険にさらす対応ではなかったのか、伺います。

第2に、「延命措置の希望が不明な方は入院調整困難」とする通知を出したことです。4月28日、市の健康医療政策室が出した通知には「陽性判明時点で集中治療・人工呼吸器装置希望の有無を確認すること。不明の場合、適切な医療機関の選定や入院調整困難」と書いてあります。これを見て当該施設の方は「延命措置を希望しない方は入院措置されないと判断し、市と相談して延命希望されない方は施設内で療養することにした」と述べています。陽性者が出ても入院措置されなかった原因は、この市の通知にあったのです。しかし、県の担当者に入院判断について聞いたところ「病床の状況を見て、あくまでも保健所の判断で振り分ける。ご家族の判断にゆだねることはない」とのことでした。また、県は「急変時の医療やケアを希望しなかった方に対して、入院措置しないということはあるのか」との質問に対し、県の担当者は「ない。急変時と陽性者になった時の入院可否判断とは別物」という回答でした。なぜ、市は「延命措置の有無と入院可否判断は別」という県の指針とは違う対応を取ったのか、伺います。

以上のように、原則から外れ、県の手引きとも違う対応を取ったことにより、入院希望者以外は入院できず、検査・治療設備もない施設で留め置かれ、重症化しても入院措置がされなかったのです。4月に出した通知を撤回し、高齢者福祉施設で陽性が確認された場合は入院という原則に立ち戻り、陽性者を速やかに入院させるべきです、伺います。

【答弁】

はじめに、神奈川県の「高齢者福祉施設における対応の手引き」では、斤場陛が確認された場合、原則は入院となりますが、病床のひっ迫状況や感染者の病状等に応じて、施設療養をお願いする場合があります」とされており、「原則入院」とは「全員入院」とイコールではないことを県と共有しております。

これに基づき、本市におきましては県と同様に、「原則入院」を基本としながら、病床のひっ迫状況や感染者の病状等に応じて、個々に適切な対応を図っているところでございます。

施設内療養を行うに当たっては、施設内感染の拡大を招くことがないよう、保健所や健康安全研究所が施設側に助言・協議を行い、感染制御が可能であることを前提としております。

その上で、保健所支所、施設・嘱託医が連携して、感染者の病状に応じた医学的な所見を御本人・御家族に説明した上、当事者の思いを踏まえながらケアと治療の方鉾の共有、いわゆるインフォームドコンセントを行い、必要かつ適切な対応を図っているところです。

なお、コロナに限らずインフォームドコンセントについては、従来から一般的に行われているものと認識しております。

次に、県の手引きと本市の刈’応の整合につきましては県からは「川崎市の対応は手引きと相違ない」旨、確認しております。引き続き、状況に応じた適切な対応を図ってまいりたいと存じます。

【質問】

病床がひっ迫していないのに入院措置しなかったことについて、答弁では「病床の逼迫状況や感染者の病状等に応じて」という理由と施設での「感染制御が可能」であったことを理由にしています。しかし、厚生労働省は「病床が逼迫していない状況では、原則入院」と答えています。「感染者の病状」についても「病状が悪化すれば入院は当然」と答えており、重症化しても入院措置しなかった市の対応は明らかに間違っています。厚労省も県も、施設の「感染制御が可能」なら施設内療養できるとは一言も言っていません。明らかに市は、国や県と違う条件を付けて入院措置をしなかったのです。

「延命措置の希望が不明な方は入院調整困難」とする通知を出したことについて、「インフォームドコンセントを行った」という答弁でした。インフォームドコンセントを行うことは当然ですが、市は「延命措置の希望」と「入院調整困難」という入院判断を結び付けて通知したことに問題があるのです。県は「延命措置の有無と入院可否判断は別」、「入院判断をご家族に委ねることはない」と言っていますし、厚労省も「本人の希望には関係なく、原則入院」と回答しています。このように市の対応は県とも国の見解とも違うと思いますが、伺います。

厚労省は法令、感染症法第23条について「感染症法の目的は「まん延防止」であり、入院措置しないと他の方に感染させてしまう危険があるため原則入院としている」と回答しています。今回の市の対応は、何よりもこの原則に反するのではないですか、伺います。

【答弁】

繰り返しになりますが、「原則入院」と「全員入院」はイコールではないことを県と共有しております。

その上で、県からは「以前貴会派に説明申し上げたことと、市の対応に齟齬はないと認識しているJことを確認しております。

また、国の見解についても同様と解しております。引き続き、状況に応じた適切な対応を図ってまいりたいと存じます。

【最終意見】

 入院措置をしなかった判断について、「国の見解についても同様と解している」という答弁でした。本当に、厚労省に確認したのですか。わが党は厚労省に直接行って確認をしましたが、「市の対応は、明らかに違っている」という回答でした。厚労省の見解は、感染法上からも「高齢者施設で陽性者が出たら、原則入院」です。施設内療養の条件は唯一「病床が逼迫している」時だけです。病床が逼迫していない限りは、原則入院、全員入院なのです。川崎市が言っている「急変時の家族の希望」「施設の感染制御」などは、入院判断には関係ないとはっきり述べています。

 市はいろいろな理由をつけて入院措置しないことを正当化しましたが、幸区の高齢者施設から49人が感染し、23人が入院措置されず14人の方が亡くなった、この事実は消えません。市の取った対応は、極めて冷酷だといわざるを得ません。