むねた裕之
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21年度予算要望書(日本共産党)・・川崎市の住民自治・自治体戦略2040構想について

第十五章 主権者市民が真に主役として参加し、意見表明できる民主的な仕組み・市政運営を

 憲法は地方自治について第八章で規定しています。明治憲法には地方自治について何らの規定も設けられていませんでしたが、日本国憲法は特に一章を設け、そこに四ヵ条の原則規定をかかげて、法律をもってしてもこれを改変することのできないものとしました。「地方が治まって、はじめて国全体が治まる。地方の政治は国の政治の根源となるものである」との考えのもと、国の民主政治の根源となり、基礎となる地方自治の重要性を意識し、これに制度的保障を与え、その確立を期した結果です。

自民党政権による憲法改悪―地方自治を破壊する内容

 ところが、自民党政権は憲法改悪を強行しようとしています。そもそも自民党改憲草案は、現憲法の国民主権・基本的人権尊重・平和主義の三大要素を廃止し、国防軍や緊急事態条項を設けるなど極めて問題のあるもので、地方自治についても重大な改変が加えられようとしています。

 改憲案92条では、地方自治について「自主性・自立性」を過度に強調することにより、国の地方自治に対する責任、特に社会保障分野における国の責任が放棄される恐れがあります。また、地方自治の運営に必要な財源について、各地方自治体の住民が納める税金によることを原則にしようとする狙いがあるといえます。

 同93条では道州制に道を開くようになっており、国が行うべき福祉政策等を地方自治体に一方的に負担させる恐れがあります。他方で、基地問題等は「国の専権事項」として、地方自治体の関与が排除される恐れもあります。

 第94条では、外国人の参政権は認められないこととなっており、第95条では、地方自治体の財産管理などが広く国の役割として規定されることにより、国の権限強化、中央集権的な構造を確保され、地方自治体の自主性が損なわれる恐れがあります。このように、地方自治を破壊するような内容の憲法改定案には断固反対するものです。

自治体を変質させる「自治体戦略2040構想」

 安倍政権は、「人口減少」で危機感を強調し、市町村には「生き残り競争」をあおり、自力で存続できない市町村から地方自治体の機能を奪おうとしています。総務省が2018年7月に出した「自治体戦略2040構想研究会」第二次報告書では、第1に、「スマート自治体」へ転換するとして、AI(人工知能)による事務の代替などで職員が半分でも機能する自治体への転換をあげています。第2に、自治体をサービスプロバイダーからプラットフォームビルダーに転換するとして、公共サービスは直営を見直し、公務公共業務を縮小、廃止して民間営利企業に開放するとともに、企業の金儲けにならない業務は住民ボランティアに丸投げします。第3に、都道府県と市町村の二重性を柔軟化するとして、都道府県と市町村の間に「圏域」という新たな単位を設けて、基礎自治体の業務を都道府県が担当し、圏域での施策は中心市が展開、それ以外の市町村は行政の権限をはく奪されることになります。「2040構想」が目指す先は、道州制であり、自治体の公共サービスからの撤退であり、自治体から地方自治の権限を奪うものです。

 この再編に対しては、地方自治体関係者からも危惧の声が上がっています。「自治体戦略2040構想」に対して全国市長会の立谷会長は「国が制度を押し付けるのは自治に反した茶番だ」と批判。国による地方自治の変質を許さず、「地方自治の本旨」(住民自治・団体自治)に則った市政運営を徹底することが求められています。

 さらに「2040構想」をもとにした「第32次地方制度調査会」答申が出されました。この答申の最大の問題点は、憲法や地方自治法の理念に反する内容、問題点が含まれていることです。第1に、基本的人権がデジタル化や効率性の名の下で侵害される危険が高まったことです。地方自治体が独自に定めた個人情報保護条例を障害物のように紹介し、基本的人権の基礎である個人情報保護よりも、特定企業の利益のためにデジタル化と個人情報の利活用を推進する姿勢を明確にしています。第2に、「効率的」な行政サービスをデジタル化と広域連携体づくりによって行い、その意思決定から政策執行過程に至るまで、いかに民間企業を参加させ、その市場拡大に寄与するかという視点が強く押し出されている点です。これを推し進めてきた増田元総務大臣は「行政サービスが一元的に提供されれば、その主体は自治体だろうが、民間組織だろうが、一向にかまわない」「団体自治はほとんどその役割を終えることになる」と言い切っています。さらに「住民自治とは、自分たちで支えあいながら地域をよくしていく」行為であると述べるなど、住民自治をコミュニティの維持に取り組む活動だけに限定されるという見解を示しています。このように「2040構想」と地方制度調査会答申は、憲法の基本的人権と地方自治、特に団体自治と住民自治を踏みにじる危険性を含んでいます。

 「2040構想」の具体化である地方制度調査会答申を受けて、各種法改正による具体化が始まっています。デジタルファースト法制定とマイナンバーカードの普及促進、国土交通省による「スマートシティ」モデル事業、国家戦略特区法改正を受けた「スーパーシティ構想」の具体化など、個々の自治体や地域ごとでの動きが加速すると考えられます。

スーパーシティ法―個人情報掌握と監視社会に

 人工知能(AI)やビッグデータなど最先端技術を用いた事業を特例的規制緩和で導入すし、スーパーシティ構想を実現するためのスーパーシティ法案(国家戦略特区法改定案)が5月27日、参議院本会議で可決、成立しました。日本共産党は反対をしましたが、反対の最大の理由は、日本を中国のような「監視社会」に導き、個人のプライバシーと権利を侵害する重大な危険性があるからです。

 スーパーシティ構想は、企業などの実施主体が住民の個人情報を一元的に管理する代わりに、医療、交通、金融などの各種サービスをまるごと提供しようとするものです。個人情報と、顔認証やスマートフォンの位置情報により掌握された行動軌跡は、ビッグデータに集積され、AI(人工知能)により分析、プロファイリング(個人の特徴を識別)されます。個人の特性や人格まで推定することが可能となります。

 海外の好事例とされたカナダ・トロントの『スマートシティ事業』は市民の反対が強く、行き詰まっていた上に、コロナ流行を受けて中止に追い込まれています。カナダの社会学者、デイビッド・ライアン氏は、スマートシティ構想(日本ではスーパーシティ)が、監視社会を軌道に乗せるための実験場となり、結局は住民より国家・企業優先の都市になる危険性があると警告しています。

 監視社会のトップランナーは中国です。政府・大企業が膨大なデータを分析し、国民への監視や統治に活用して、ウイグル族弾圧や民主化を求める活動家の拘束にも監視カメラや顔認証技術が用いられてきました。政府がスーパーシティ構想のお手本としてきた杭州市は、街全体のIT化が世界で一番進んでいますが、裏を返せば、街中に監視カメラが数千台もあるなど監視社会の最先端です。

 一方、スペインのバルセロナでは、個人情報を守りながら、住民の合意に基づき、交通整理や駐車場管理、ごみ集めシステムなど住民に喜ばれるスマートシティづくりを進めています。このような街づくりこそ見習うべきですが、本法案には住民合意を担保するしくみが欠落しています。

 いま重要なことは、個人情報を保護しつつ、先端技術を住民福祉の向上にどう生かすのかという落ち着いた国民的議論と、プライバシー保護という時代の流れを視野に入れた中長期的な企業戦略です。哲学もビジョンも深い考えもなく、目先の利益だけを追う一部の企業家などの拙速な要求だけで、社会のあり方を変えようとする本法案は言語道断であり、廃止すべきです。

福田市政―「2040構想」の先取り「これからのコミュニティ施策の基本的考え方」

 福田市長は2019年3月、「これからのコミュニティ施策の基本的考え方」を策定しました。2018年11月の素案策定からわずか4ヵ月後の2019年4月から実施する予定という異様な提案でした。2015年12月議会に提案した「基本構想」「基本計画」「実施計画」で、自助・共助(互助)の強調し、市民自治の分野では直接の目標が「市民の支え合いを中心としたコミュニティ形成を支援する」とされ、自助・共助で市民同士が支え合い、公助に頼らないことを求めるような内容になっています。「これからのコミュニティ施策」は、この基本構想を一層徹底したものです。

 この施策では「公費を直接投入し、その解決を図る従来型のサービス提供手法や行政主導の協調スタイルを見直し・・多様な主体による市民創発型の課題解決ができる」ようにするとしています。地域レベルでの「まちのひろば」(地域の居場所)や、区域レベルでの「ソーシャルデザインセンター」(市民主体の運営によるコミュニティ)など、多様な主体に任せて公費の直接投入をやめていくということで、まさに、「自治体戦略2040構想」の先取りです。

 本来、住民自治、市民自治とは、国における主権者が国民であるのと同様、地方自治体の主権者は住民・市民であり、市政運営の基本は主権者である住民・市民から付託された権限を行使するものだということを意味します。「市民の支え合いを中心としたコミュニティ」をどのように形成していくかは市民が自主的に決めることであって、市民自治の問題とは関係がないものです。市民自治の概念をゆがめることなく、市政運営の基本に主権者市民を位置づけるべきであり、また、「参加と協働により」「市民自治を推進する」というなら、市の施策に対する市民の声を真摯に反映する仕組みの充実に努めることこそ、求められています。

福田市政で踏みにじられてきた団体自治、住民自治

 憲法の「地方自治の本旨」は、住民自治と団体自治の二つの要素からなり、住民自治とは、地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素であり、団体自治とは、地方自治が国から独立した団体にゆだねられ、団体自らの意思と責任の下でなされることです。福田市政は、この住民自治、団体自治を幾度となく軽視してきました。

住民自治の問題では、タワーマンションが乱立し、保育園不足、学校の過密化、鉄道の大混雑などで大きな反対運動が起こっている小杉駅再開発、住民の意見を無視して、公共施設を集約して行われる鷺沼駅周辺再開発など、住民の意見や反対を無視した開発が進められてきました。

団体自治の問題では、国の要請で倍に膨れ上がった臨港道路東扇島水江町線の総事業費を市長の独断で了承したことや防衛省の求めに応じて、非公開であるはずの住民台帳の青年名簿を自衛隊に提出している問題など、本来、国から独立している団体なのに、国の言いなりになっています。市が市民の意思を無視し、地方自治の本旨である住民自治、団体自治をおろそかにすることは許されません。

コロナ禍でこそ地方自治体の役割と姿勢が問われる

 新型コロナウイルス感染症は、いまも南アメリカ、南アジア諸国で急激な感染拡大が進行しており、日本や川崎でも収束の兆候は見られず、第3波の危険性が高まっています。4月に緊急事態宣言が全都道府県に発令されたことにより、各地方自治体の首長に大きな権限と責任が生じることになりました。今回のコロナ禍で、国民にとっての大きな不安は、PCR検査がなかなか受けられない中で「医療崩壊」が起きつつあることに加え、国による「保障なき休業要請」で経営や生活が成り立たないという事態でした。このコロナ禍のもとで、各自治体は、国民・市民の不安・要望にどう応えたのか、そのような対策をとったのか、その姿勢が問われています。

5月臨時会で川崎市でも、ようやく新型コロナ対策の補正予算が出されましたが、国や県の支出金、融資を除いた市単独の支出はゼロでした。他の政令市が、休業協力金や医療機関への補助を独自にやっている中で、市の支出はゼロ。PCR検査数についても、抜本的な拡充を図らず、10万円の定額給付金についても、発送が政令市よりも半月遅れるなど支援が後手後手となりました。

6月議会では、今、一番求められている医療施設への市独自の支出は、5月補正に続き6月補正でもゼロ。川崎市の医療供給体制は人口当たりの病床数、医師数、ICU設置数ともに政令市でワーストの状況。保健所の職員数も、この20年間で人口が30万人増えたのに職員は53人削減されるなど、医療提供体制、保健所体制ともにここまで脆弱であることも明らかになりました。このように川崎市でもコロナ禍の中で、医療、公衆衛生分野など、これまで新自由主義的構造改革、行財政改革によって削減してきた負の遺産が露呈しました。

 コロナ禍の中で、多くの人々が公衆衛生や医療・介護、さらに交通、物流、食品小売業だけでなく、教育、文化などの仕事の重要性に気づきました。その基礎を担うのが「公共」分野で働く人々であることも明確になりました。地方自治体を国の統制と指摘企業の儲けの対象としか考えない安倍政権の「自治体戦略2040構想」では、人々の命と健康は守れません。いまこそ、川崎市は、地方自治の力を発揮して、削減してきた医療、公衆衛生、福祉分野を充実させるだけでなく、主権者である住民の幸福追求権、生存権、そして財産権を保障する憲法の観点から、自治体本来のあり方に戻すことが求められています。

(一)地方自治を壊し、個人の尊厳をないがしろにする自民党政権の憲法改悪には断固反対する。その立場を市長が表明するよう求める。

(二)自治体を変質させる「自治体戦略2040構想」、「スーパーシティ構想」には反対する。その先取りともいえる「これからのコミュニティ施策の基本的な考え方」を、公助がしっかりと中心にすえるものに抜本的につくりかえる。

(三)団体自治の精神を徹底する立場から次の事項を実現する

1 自治体行政を住民から遠ざけ、小規模自治体の自治権を奪い、切り捨てることにつながる道州制と市町村合併のおしつけはやめるよう、国に要求する。

2 市が計画している大都市制度(「特別自治市」)は、県から各種県税を移行させ、事務権限も移行させることにより、道州制への移行を視野に入れたものであり、撤回する。

(四)住民自治の精神の徹底から、市民が主権者であることをきちんと位置付ける

1 その立場から、「自治基本条例」を次のように改定する。

①自治基本条例には、主権者は市民であることが明記されていない。市民は行政の手伝いをするものであったり、行政と同列なのではなく、主権者であることを明記する。

2 「住民投票条例」は住民が真に使えるものに改正する。

①住民投票の対象事項は、「市長が意思決定していない、つまり施策として形になっていないものしか投票の対象にならない」ことが、条例制定の委員会審議の中で明らかになった。これでは、市民が問題に気がついたときには多くの場合、住民投票にはかけられないことになる。市民が住民投票にかけて市民の意思を問いたいと思う問題は対象になるように、対象事項は「現在または将来の住民の福祉に重大な影響を与え、または与える可能性のある事項」のみにする。

② 住民発議にとって必要な署名数を投票資格者総数の一〇分の一にしていることも、住民投票を発議しにくくして、市民の手を縛ることになっている。必要な署名数は投票資格者総数の二〇分の一にする。

③ 住民投票は「間接民主主義を補完するための制度」と市自身も認めていることから、議会への協議は削除する。

④ 投票日は、問題によっては機を逸することがないように、国政・地方選挙と投票日とは別にして、単独投票日とする。

3 「まちづくり育成条例」を、市民が主権者と位置づけ、抜本的に改正する。

4 「総合計画」・「基本計画」の策定にあたっては、市民が主権者であることをきちんと位置づける。市民に十分な説明を行ない、市民意見を反映するようにする。

5 地方自治法第1条の「住民福祉の増進」という立場から、これ以上の「行革」はやめ、市民要求実現に全力をあげる。

(五)市民参加を実効的なものにするため、次の各制度を改正する

1 市民意見を充分市政に反映できるよう、「パブリックコメント条例」を改正・活用すべきである。

① パブリックコメント制度の目的に、「市政運営に市民意見を反映するため」を加え、政策決定過程にパブリックコメントの内容をどう取り入れるか検討する場を加える。

② パブリックコメントはホームページだけでなく、区役所や図書館など公共施設に印刷物を置き、誰もが自由に持ち帰って意見を述べられるようにする。受取人払いの封筒をつける。

③ 市民意見を募集したい事案については、該当地域や全市を対象に説明会を開くなど、あらかじめ市の考え方を説明する機会を設け、市民が理解したうえで意見を述べるようにする。

2 各区の区長の選出については準公選制を導入する。

3 審議会等の市民公募委員を増やし、議事録を公開する。

4 音声データについても、公文書であるという審査会の答申を徹底し、各局に公文書として保管義務を徹底し、開示請求の対象として公開することを徹底する。再発防止のための組織として第3者を加え、より実効性のある制度に改善する。