むねた裕之
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川崎市―JFEなど臨海部から撤退する企業に奨励金、そこで働く労働者のことは考えもしない

12月4日、川崎市議会12月議会で日本共産党は代表質問を行いました。そのなかの「臨海部大企業のリストラと臨海部投資促進制度について」、その質疑を以下に紹介します。

【質問】

大企業のリストラについてです。

JFEスチール株式会社京浜地区高炉休止について伺います。

京浜地区に残れるのはわずか50人、黒字なのにリストラ実行

JFEスチール株式会社は11月9日、高炉休止の計画を前倒しして2023年9月に実施すると発表しました。この間、JFEスチールは、従業員1200人に対して、京浜地区に残れる人はわずか50人程度と発表。その他の地域でも千葉地区に50人、知多地区に40人、仙台地区に30人など全部合わせても170人分しか配転先を確保できていません。西日本では数百人の受入れを想定しているとしていますが、このままの計画では多くの退職者・離職者を出すことは確実です。しかもJFEは「21年度は黒字化を達成」するとも発表しており、黒字でありながらリストラを実行するなどということは許されることではありません。

市は法律、通達を活用して雇用が保証されない撤退は白紙撤回を

こういう撤退を計画している企業に対して、厚生労働省は、2013年3月の通達で、「企業に対し雇用維持努力を要請すること」や雇用対策本部の設置などを求めています。また、2018年12月「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正されました。第27条で事業主は相当数の離職者が発生する場合「大量の雇用変動の届け出」を出さなければならず、地方公共団体の長は「厚生労働大臣に対し、労働者の職業の安定に関し必要な措置の実施を要請することができる」とし、「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導または勧告をすることができる」としています。JFEの従業員の配転先などの計画が明らかになってきたわけですから、川崎市はこれら法律と通達を活用して、早急に雇用対策本部を設置すべきです、伺います。雇用の維持・確保が保証されないリストラ計画に対しては、市は撤退の白紙撤回も含めて強い態度で臨むべきと考えますが、見解を伺います。

臨海部投資促進制度についてです。

この事業は、「企業撤退等のリスクの増加」「市税収入の減少」などの課題を解決するために、制度1では30年以上創業しており投下固定資産税20億円以上の製造業が施設を新設、増設、更新する場合、補助対象経費の3%を補助します。制度2では2ヘクタール以上の土地が製造業用に売却された場合、土地を売却した企業に対して、固定資産税と都市計画税1年分の額の奨励金として交付するものです。

制度1の対象は大企業、内部留保など蓄えもあるため設備投資は自助努力で

制度1についてです。対象は臨海部の大企業のみで、生産設備など償却資産に対する支援です。しかし、大企業は、この間、内部留保を積み増ししており設備投資のための蓄えは十分にあります。そういう大企業の設備投資は自助努力で行うべきであり、貴重な市の財源を使うべきではありません。

制度2は縮小・撤退する企業に対して奨励金を出す制度

制度2についてです。土地を売却して縮小・撤退する企業に対して奨励金を出す制度ですが、「企業撤退等のリスクの増加」の課題を解決するためと言いながら、撤退することを奨励する制度になっています。この問題は単に企業が縮小・撤退しても、また別の製造業が入ってくれればよいというものではありません。

大企業が撤退すれば大量の雇用と仕事が奪われる、そんな企業に奨励金を出すのか?

大企業が撤退すれば、大量の雇用と中小企業の仕事が奪われることになります。例えば、JFE高炉休止、JFEスチール撤退により、4000人の雇用が失われ、42社の関連企業の仕事がなくなる可能性があるのです。雇用、中小企業の仕事を奪うことにつながる撤退に対して奨励金は出すことは、雇用や地域経済を守る責任がある行政がするべきことではありません、見解を伺います。雇用や中小企業の仕事を危うくするような奨励金について、市民の納得、特にそこで働いている労働者の納得を得られると考えているのか、伺います。

制度1で大企業に22億円の補助金、制度2でJFEに27億円の奨励金

さらに制度1も制度2も臨海部の大企業が対象です。制度1で新規投資目標を5年間達成すると補助金の合計額は22億円となります。もし、高炉の休止・撤退を計画しているJFEスチールが制度2を活用すれば最大で27億円の奨励金を受け取ることになります。まさに臨海部大企業に対して至れり尽くせりの制度です。市民がコロナで大変な時に、なぜ、臨海部大企業にだけ、こんな至れり尽くせりの支援をしなければならないのか、伺います。

南渡田地区の拠点開発についてです。

キングスカイフロントへ投資した180億円を回収するのに82年

キングスカイフロントの場合、償却資産の税収増が年3000万円、法人市民税が年5300万円、羽田連絡道路に伴う固定資産税上昇分の税収増が年1.4億円で経常的な税収増の合計は年2.2億円でした。市の投資額は180億円ですから、回収するのに82年もかかります。

南渡田地区の拠点整備の経済波及効果と税収増は?

南渡田地区の拠点整備については、採算に課題がある川崎アプローチ線をひけば総事業費300億円。JFEスチールが撤退すれば奨励金に11億円。さらに制度3で企業誘致のための投資を22年度以降に実施するとなると、キングスカイフロントで実施したように橋を架け、土地を購入し基盤整備をするなど、とめどもない投資につながりかねません。一方、制度1において5年間目標を達成しても年間平均の税収増はわずか8000万円です。南渡田地区の拠点整備の経済波及効果、税収増をいくらと見込んでいるのか、伺います。川崎アプローチ線を含んだ市の支出額三百数十億円は何年間で回収すると見込んでいるのか、伺います。

【答弁】

(JFEスチールについて)

JFEからは「誠意を持って対応している」と伺っている

同社からは、事業再編による雇用への影響について、グループ会社・協力会社も含めて、誠意を持って対応していると伺っております。

雇用対策本部の設置につきましては、国等の権限や責任のある機関が、法令に基づき適切な措置を講ずるべきものと考えておりますので、国・県・市の責務・役割に基づき、適切に対処してまいりたいと存じます。

本市といたしましては、関係機関との情報交換など、様々な機会を通じた情報の把握とともに、引き続き、同社や庁内の情報共有に努めてまいります。

(臨海部投資促進制度について)

川崎臨海部におきましては、素材産業を中心とした製造業が集積し、日本有数のコンビナートを形成しているものの、近年、設備の老朽化や製造業以外への士地利用の転換などの課題が顕在化しており、こうした状況が進展した場合には、操業環境の悪化等によりコンビナートの強みが損なわれることが懸念され、現にそうした状況も見受けられるところでございます。

引き続き製造業の立地を促進するための奨励金

こうした中、事業所の高度化・高機能化を促すことにより、今後も川崎臨海部に立地し続けられる環境を劃するための積極的な設備投資を喚起する補助制度や、臨海部で土地利用転換が見込まれた場合に、引き続き製造業の立地を促進する奨励金制度について、立地企業の御意見を伺いながら、制度構築を図るものでございます。

雇用や市民サービスを支え続けるために

力強い産業都市の中心である川崎臨海部が、今後も雇用や税収面から市民サービスを支え続けるためには、すそ野の広い製造業の立地が重要であることから、本制度を適切に運用し、川崎臨海部全体の産業競争力の強化を図ってまいりたいと考えております。

(南渡田地区の拠点整備について)

経済波及効果について具体的な数値は算出していない

南渡田地区の拠点整備による経済波及効果等につきましては、現在、同地区に導入する機能等を検討している段階でありますことから、具体的な数値は算出しておりませんが、新たな拠点形成に向けて適切な投資を行う.ことにより、競争力があり成長が見込める企業等の誘致が図られ、その設備投資や事業活動などにより、税収の増加、雇用の創出をはじめ、市内産業への波及など、様々な効果を見込んでいるところでございます。今後、これらの効果が最大限に発揮できるよう拠点整備計画を策定し、持続可能な新産業拠点の形成に向けて取組を進めてまいります。

【再質問】

臨海部投資促進制度と企業撤退についてです。

JFEの計画では雇用や取引企業の仕事もなくなる、どうやって保証するのか?

制度1について、答弁は「事業所の高度化・高機能化を促し・・臨海部に立地し続けられる環境を整備するため」に必要ということです。しかし、この制度を使っても、現にJFEスチールのように撤退する企業は止められません。

制度2についてです。「臨海部から撤退する企業に対して奨励金を出すということは、撤退を奨励する制度であり、雇用や中小企業の仕事を奪うことにつながるのでは」という質問に対して、「引き続き製造業の立地を促進するため」、また「雇用や市民サービスを支え続けるために」必要という答弁でした。しかし、現在、撤退する企業で働いている労働者や取引のある企業が、そのまま移転できるわけではありません。JFEの計画では、実際に京浜地区には50人しか残れず、配転ができない方など多くの方は、離職、退職に追い込まれ、取引企業の仕事もなくなる危険性があるわけです。そういう人たちの雇用、中小企業の仕事をどうやって保証していくのか、伺います。JFEスチールの撤退計画について、雇用を保証できない計画は見直しを要求すべきと思いますが、伺います。

南渡田地区の拠点整備についてです。

経済波及効果も算出していない計画は見直すべき、キングスカイフロントの二の舞に

経済波及効果について質問しましたが、「具体的な数値は算出していない」という答弁でした。また、「企業の誘致が、税収の増加や雇用の創出、市内産業への波及など、さまざまな効果を見込んでいる」という答弁もありました。しかし、キングスカイフロントでは、市は180億円も投資していながら、税収増はわずか年2.2億円、市内企業が受けた仕事はわずか3件で、実際、川崎区の法人市民税は5年間で9億円の減収、製造業の事業所数は10年間で1/3減少し、従業員数も1300人減少しているのです。このままではキングスカイフロントの二の舞になります。具体的な経済波及効果も出ていない状況で、南渡田地区の計画は見直すべきと考えますが、伺います。採算性に課題がある川崎アプローチ線の計画は、白紙に戻すべきと考えますが、伺います。

【答弁】

(臨海部投資促進制度とJFEスチール撤退について)

川崎臨海部が、今後とも、ものづくりの拠点として選ばれる続けるためには、地域全体の操業環境の向上を図ることが重要でございます。

こうしたことから、既存産業の投資意欲を喚起することを目的として本制度を構築するとともに、臨海部ビジョンに位置付けた取組を総合的に推進し、臨海部における産業競争力の強化を図ってまいります。

JFEの事業再編は「誠意をもって対応している」ものと伺っております

また、JFEスチール株式会社における事業再編につきましては、雇用への影瓣について、グループ会社協力会社も含めて、誠意をもって対応しているものと伺っておりますので、本市といたしましても、その動向を注視してまいります。

(南渡田地区の拠点整備について)

南渡田地区につきましては、新たな拠点形成に向けて適切な投資を行うことにより、様々な効果を見込んでいるところでございます。今後、これらの効果が最大限に発揮できるよう新産業拠点の形成に向けて取組を進めてまいります。

また、臨海部ビジョンにおいて、川崎アプローチ線等の基幹的交通軸の整備を位置づけておりますことから、臨海部の持続的な発展を支えるため、今後とも交通機能の強化に向けた取組を進めてまいります。

【再々質問】

臨海部投資促進制度と企業撤退についてです。

JFE京浜地区に残れるのはわずか50人、これのどこが「誠意ある対応」なのか

JFEスチールの撤退について、「雇用、中小企業の仕事をどうやって保証していくのか」という質問に対して、「誠意を持って対応しているものと伺っている」という答弁でした。東芝、富士通、NECなど企業のリストラに対して、市はいつも同じ答弁をしてきましたが、そのもとで多くの労働者が不当解雇、退職強要などで苦しめられてきました。今回のJFEの計画では、1200人の従業員のうち京浜地区に残れるのはわずか50人です。これのどこが「誠意ある対応」なのですか。その言い訳はもう通用しません。きちんと市は、雇用と中小企業の仕事を保証せよ、そうでなければ撤退計画は白紙にせよと強い態度で臨むべきです。それが、雇用と地域経済を守る行政の役割ではないですか。

市のやるべきことは企業の社会的責任を果たすように交渉すること

「企業撤退のリスク」に対応するためという投資促進制度ですが、全く抜けている対策があります。それは、撤退を計画している企業に対し、そこで働いている労働者の立場に立って交渉することです。市がやるべきことは、撤退する企業に奨励金を払うことではありません、出ていかないように交渉することです。撤退する企業に対して、雇用と地域経済を守るという企業の社会的責任を果たすように交渉することこそ、行政の役割ではないですか、伺います。

【答弁】

鉄鋼業界が大変厳しい状況にある中、川崎市の産業をリードし、わが国の経済をけん引してきた同社が事業再編を行うことを大変厳しく受け止めており、地域経済と雇用の安定は大変重要であると認識しているところでございます。

JFEスチール株式会社における事業再編につきましては、雇用への影響について、グループ会社や協力会社も含め、誠意を持って対応していくと伺っておりますので、本市といたしましても、その動向を注視してまいります。

【最終意見】

大企業に補助金22億円、JFEに奨励金27億円に対し中小企業の予算はわずか7億円

 臨海部の大企業は、制度1により補助金22億円を受け取り、撤退を計画しているJFEスチールは、制度2により最大27億円の奨励金を受け取ることになります。しかもJFEは来年度、黒字の企業です。一方、コロナ、長期不況で倒産・廃業の危機にある市内中小企業への中小企業支援予算は全体でわずか7億円。まさに、大企業には大判振る舞い、中小企業には雀の涙ほどの予算です。

撤退する企業に奨励金、そこで働く労働者や中小企業については考えもしない

また、撤退する企業には奨励金を出すが、そこで働いている労働者や中小企業のことについては考えもしない。こういう市長の姿勢こそが、多くの労働者と中小企業を苦しめるのです。