むねた裕之
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川崎市の窓口、郵送業務を民間委託している問題について

12月17日、川崎市議会12月議会で日本共産党・むねた議員は「戸籍・住民票の事務処理における民間委託について」取り上げました。

公務員と民間職員では法令上の厳しさも違うなど、民間の場合、情報漏洩などの問題が生じる危険性が高いことを指摘。さらに、戸籍事務の民間委託は違法の疑いが強く、偽装請負などの法的問題点もあるために、作業が非常に非効率になっていると指摘。むねた議員は、官製ワーキングプアを拡大させないためにも、これらの業務委託は見直すよう求めました。

議場の写真

【質問】

・川崎市は、市民の個人情報を扱う窓口で事務処理などを民間事業者に委託しています。しかし、市民の方から各地で委託業者の情報漏洩、改ざんなどの問題が出ており、個人情報がきちんと守られているか、不安の声が寄せられています。

戸籍・住民票の事務処理について

戸籍・住民票の事務処理で外部委託をしているのは、どういう部署で、どういう業務をしているのか、伺います。

【答弁】

委託している業務としましては、各区役所区民課及び支所区民センターに来庁された方の、住民異動届書に基づく異動入力や、各種証明書の出力等でございます。

また、郵送請求事務センターにおきましては、郵送請求された方の、各種証明書の出力及び交付手数料の収納事務等でございます。

【質問】

・市が委託している業務としては、区役所の窓口業務で住民票異動届の入力や各種証明書の出力業務。また、郵送請負事務センターでの戸籍など各種証明書の郵送業務ということです。

住民のプライバシー情報の保護について

・市が事務処理を委託している「りらいあコミュニケーションズ」についてです。りらいあコミュニケーションは、今年6月、鹿児島では通話データを改ざん・捏造していた問題が発覚、さらに11月、東京都でも、個人情報の漏洩事故を起こしています。

住民のプライバシー情報の保護について、民間委託している事業者に対して、どういう対策を打っているのか、伺います。

【答弁】

委託業務の履行にあたってのセキュリティ確保につきましては、個入情報の取扱いについて必要な事項を定める「個人情報の取扱いに関する情報セキュリティ特記事項」を約款と併せて契約を締結しております。

また、守秘義務の履行を担保するため、委託事業者に対しまして、業務従事者との連署による誓約書の提出や、事前及び定期的に、秘密の保持についての教育を実施することを義務付けているところでございます。

【質問】

・委託事業者に対して誓約書の提出や教育を行っているということですが、業務従事者が非正規労働者の場合、その職場をやめた後の秘密保持はどう担保されるか?この不安はぬぐい切れません。

郵送請負業務の場合、送られてきた申請書を開封し、その申請に沿って証明書を印刷して郵送する。こういう場合、戸籍などその方の個人情報に触れるわけですが、情報漏洩の危険性がないのか、伺います。

【答弁】

郵送請求事務センターでの業務におきましては、従業者に対し守秘義務を課していること、端末操作の記録を採取すること、事務室に電子記録媒体の持ち込みを禁じることなどにより、情報漏洩の防止に努めております。

【質問】

・「端末操作の記録を採取、電子記録媒体の持ち込みを禁じる」ことで情報漏洩の防止をしているということです。しかし、記録媒体の持込などを禁止しても、作業を四六時中、監視することはできないわけで、これでは情報漏洩を防ぐには不十分です。

個人情報の守秘義務について、公務員と民間職員とでは、法令上も厳しさが違います。民間に委託した場合、個人情報の漏洩問題が起こる危険性が高くなると思いますが、伺います。

【答弁】

委託された業務に関して知り得た個人情報に関する秘密について、契約期間中及び契約満了後、あるいは契約解除後においても、漏えいした場合には、住民基本台帳法の罰則規定及び川崎市個人情報保護条例の罰則規定が適用されることが委託仕様書に明記されているところでございます。

【質問】

・民間職員にも「罰則規定があるから」という答弁ですが、民間職員と公務員とでは厳しさが全然違います。公務員の場合、憲法を守る宣誓をし、自覚と責任を持って秘密を守るという義務が法律で厳しく課せられています。一方、期限付きで不安定な雇用形態で働いている民間業者の従業員に対して、同様の義務を果たせるのか疑問です。

・行政と民間事業者との間で、個人情報を保護する旨の協定が結ばれていたとしても、公務員について懲戒処分や刑事罰が設けられていることと対比すれば、民間事業者における個人情報の漏えい等の問題が生じる危険性は、著しく高いといえます。現に東京都では情報漏洩は防げなかったわけです。

戸籍法など法令上の違法性について

戸籍などの個人情報を民間事業者に委ねることは、住民の個人情報の保護やプライバシー権の保障を脅かす危険があると思いますが、伺います。

【答弁】

業務を委託することにつきましては、内閣府による「地方公共団体の適正な請負(委託)事業推進のための手引き」に基づき、適正な事務の範囲内で委託するとともに、関係法令等に則って、的確に業務を実施してまいります。

【質問】

・内閣府の「手引き」や「関係法令に則って」実施しているという答弁です。しかし、戸籍と住民基本台帳等の管理は、法令により市区長村長が管轄することとしています。これは、さまざまな法令や権利関係を左右する、出生や死亡その他の親族関係を公に証明するという制度の重要性から、特定の利害関係を有する営利事業者ではなく、市区町村長が管轄することとしたものです。このように、戸籍事務の民間委託は、戸籍法等の法令が市区町村職員の権限としている事項に民間事業者の職員が関与する点で違法です。以上のことから郵送請負業務において民間職員が戸籍等を取り扱うことは、違法性が高いといえます。

ひとたび個人情報漏えいの問題が生じれば、行政としても住民に対する損害賠償のリスクを負うこととなると思いますが、伺います。

【答弁】

個人情報の漏えい等の問題が発生した場合におきましては、住民基本台帳法の罰則規定、川崎市個人情報保護条例の罰則規定、及び関係法令等に則り、市が主体となって適切に対応してまいります。

【質問】

・住民に対して損害賠償をするだけではなく、行政としての責任が問われます。住民の個人情報、基本的人権に関わる大事な事務を民間に委託していたこと。さらに情報漏洩の危険性、戸籍法令などの違法性が高いという懸念が専門家から指摘されているのに委託していたことなどの責任も問われることになります。

偽装請負などの法的問題点について

・2014年、東京都足立区が戸籍事務を民間委託していたことについて、偽装請負などの法的な問題で裁判にもなっています。職場で、委託業者に対して直接、業務遂行に関する指示等を行うことが想定されている場合、本来は、労働者派遣契約を締結しなければなりません。しかし、この派遣契約を業務委託契約、請負契約にした場合、委託業者に直接指示などをすれば偽装請負となり、派遣法違反となります。

民間職員が、区職員に直接問い合わせすると偽装請負となりますが、こういう場合、どのように対応しているのか、伺います。

【答弁】

委託にあたりましては、運用責任者、現場責任者及び、現場副責任者の配置を義務付けております。運用責任者は、業務が円滑に行われるよう、契約所管課と現場責任者との間で、連絡調整等を実施し、また、現場責任者は、業務従事者に対する指揮監督を行い、現場責任者が不在の場合には、現場副責任者が代わって行うこととしておりますので、業務従事者は直接、職員に問い合わせることがないような体制となっているところでございます。

【質問】

・民間職員は業務に関して質問などがあれば、いったん現場責任者に伝え、現場責任者は運用責任者に伝え、運用責任者は市職員に伝えます。市職員はその回答をまた、同じルートで伝えていく。まさに伝言ゲームです。一つの質問でもこれだけの工程を経なければなりません。効率化とは真逆の運用です。

窓口で受付した届書の入力について、区職員の判断を介在せずに実行することとされています。しかし、入力するにあたっては法令上の要件をみたすかどうかについて判断を要する事項が多岐に及んでいます。このような場合、どのように対処するのか、伺います。

【答弁】

住民異動届等の内容につきましては、本市職員が窓口で確認したうえで委託事業者に引き継ぎ、業務従事者はシステムへの入力のみを行っておりますので、委託事業者が判断等を行うことはございませんが、内容に疑義がある場合には、現場責任者を通じて確認を行うこととしております。

【質問】

届書の不備の補正について、民間事業者の判断により届書の補正をすることは許されていません。そういう場合、どういう対応をとっているのか、伺います。

【答弁】

確認の結果、届出に不備等があった場合につきましては、現場責任者からその事実のみが本市職員に伝えられ、補正等につきましては、職員が実施することとしております。

【質問】

・このように、民間職員の入力作業といっても、単なる質問から、届け出の不備、不備の補正などいちいちこれだけの手順を踏む必要があるのです。これのどこが「効率化」なのでしょうか。

窓口業務と入力業務を切り分けていることについて、一体であるべき業務が分断され、非常に非効率であると思いますが、伺います。

【答弁】

業務の一部を委託することにつきましては、当該業務の事務フローを精査し、関係法令等に抵触することのないよう、各フェーズを的確に分割したうえで、民間スキルの活用や事務の費用対効果を踏まえ実施しているところでございます。

【質問】

・本来市職員がやれば、一人で済むところを、民間委託により民間職員が事務処理をすれば、これだけ複雑な手続きを踏まなければならないのです。「自治体の効率化」どころか、全く、非効率な状況となっています。

民間事業者で働く労働者の賃金について

・民間事業者は、自治体から委託料を受け取って運営されることになっています。これにより自治体は、人件費の抑制や自治体財政の効率化がすすめられるとしています。しかし、全国の労働組合からは「官製ワーキングプア」をさらに拡大させる恐れがあると指摘されています。市の仕事をやっている労働者がワーキングプアとなるという事態は許されません。

住民票の事務処理において外部委託している民間事業者で働く職員、派遣など非正規労働者の賃金などについて、見解を伺います。

【答弁】

住民異動届に基づく異動入力等の業務委託につきましては、国の定める最低賃金や、複数の事業者から徴取する見積等に留意し、要員の役割や職責を踏まえ、現場責任者は2,977円、現場副責任者は2,577円、業務従事者は1,9 3 1円、また、郵送請求事務センターの業務委託につきましても同様に、現場責任者は、3,066円、現場副責任者は2,400円、業務従事者は1,866円で積算したところでございます。

契約の締結にあたりましては、関係法令等に則り、適切に実施しておりますので、委託業務に従事する者の賃金につきましても、事業者において、適切に処理されているものと考えております。

【意見・要望】

・業務委託の賃金の積算では、時給1900円から3000円と市職員並みの賃金で積算されていました。しかし、問題は、民間事業者が民間職員に対して、きちんとこのような賃金が払われているかどうかです。民間委託では、市が民間職員の賃金までは把握することが難しく、どのような雇用形態で働いているかも不明です。まさにここに大きな問題があります。

・以上のように、区役所での窓口業務や郵送請負業務の民間委託は、市民の個人情報保護に点で情報漏洩などの危険はぬぐい切れず、法令上の違法性が高く、偽装請負などの法的問題があり、業務自体が非常に非効率となっています。さらに、民間事業者のもとで働く労働者の賃金や雇用環境も不透明で「官製ワーキングプア」を拡大させる恐れがあります。これらの点から、市の業務から分断されたこれらの業務の民間委託については見直しをして、市の職員の業務に戻すことを要望します。