むねた裕之
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所得税法第56条―業者の家族従業員の働きを認めない差別的税制

11月14日、宗田議員は、総務委員会で所得税法第56条について、質疑を行いましたので紹介します。

(質問)

川崎市の経済を根底から支えているのが中小企業。市内企業の9割が中小企業、その大部分が小規模事業者。小規模事業者の大半は、商店や家族だけでやっている家族経営で、人を雇う余裕はなく、事業主の妻や子供の働きによって大変な経営を乗り切ろうと努力している。

さらに、今年は消費税増税、台風の被害などで廃業の危機が増している。

この家族従業員の労働を労働と認めず、申告形態によって差別され、家族の働き分さえ経費として認められないのが、所得税法第56条。

この制度は・・他の主要先進国では例を見ない特異な制度/国連からも「見直しするように」勧告を/国会でも毎年のように取り上げられている。

(最大の問題点・・家族従業員の給料が経費として認められない)

人間が働いたら、その労働にふさわしい給与を受け取るのは当然のことです。かりに家族従業員が、世間的な常識の範囲として年間150万円の給与に匹敵する労働をしても、56条のもとでは、妻の場合、事業者控除が86万円のみ(時給344円)、子どもの場合、50万円(時給200円)だけしか認められない

この家族従業員の控除額が、正当な労働の対価といえるのか、伺います。

(答弁)

白色申告に係る専従者控除の額については、給与実額の経費算入を認めていないところでございますが、本年328日の参議院財政金融委員会における国税庁長官の答弁において、「実際の給与支払の有無にかかわらず、概算的な定額の控除を認めて配慮を行っている」と説明されているものと承知しております。

(質問)

「概算的な定額の控除」との答弁です。結局、妻は86万円、子どもは50万円。普通に働きに出れば(例えば近所の商店)150万円の給与が得られる労働をしているのに家族従業員というだけで実際に働いたという事実もその給与も認めないということ。

家族従業員の労働の対価が認められないということで、どのような不利益があるのか、伺います。

(答弁)

白色事業専従者に係る労働の対価についての質問でございますが、制度による不利益な取扱いや差別的な取扱いについて、市として把握しているものは特にございません。

(質問)

実際、不利益な取り扱いはある。例えば、給与所得の公的証明が得られないために、不測の事故に遭遇した場合でも、受けた被害の補償が適正に審査されない/病気になった場合、国保の適用において給与所得者に認められる傷病手当や休業手当などが受けられないなど差別的な不利益を余儀なくされている

(歴史的経過―戦前の税法56条が残った理由)

戦後、シャウプ勧告によって日本の税制は大きく変わりました。

戦後の税制改正で、課税単位の原則は、どのようになりましたか、世帯ごとか、個人ごとか、伺います。

(答弁)

所得税法については、昭和24年のシャウプ勧告において、所得税の課税単位を個人単位とするよう指摘があり、翌年の昭和25年の税制改正において、世帯単位課税から個人単位課税に移行したととろでございます。

(質問)

戦後、シャウプ勧告により家父長的「世帯合算課税」の多くは民主的「個人単位課税」に改善。しかし、56条は、明治20年に制定された所得税法の「世帯合算課税」という前近代的な家父長制的な制度が残った/56条は家父長制度の遺物

戦後の税制改正時、所得税法に56条を残した理由はなにか、伺います

(答弁)

解説によれば、所得税法第56条の趣旨としては、個人事業が家族全体の協力のもとで成り立つものが多く、それについて個々の対価を支払う慣行があるといえないため、家計と事業から生じる所得を切り離して考えること自体に無理があり、個人財産の使用に対する対価を一般に必要経費に認めることとすると、家族間の取り決めによる窓意的な所得分割を許すこととなり、税負担の不公平をもたらすことになること、また、その対価の金額も恣意的に決められることが多く、客観的な合理的な対価の額を算出すると実務上困難であることなどを、根拠として設けられた規定であると説明されております。

(質問)

政府、課税庁側の56条を残した理由が3つある。

第1の理由は、「所得は世帯主が支配しているのが通常」。しかし、これは前近代的な制度(戸主のみを納税者として扱い戸主の名義で納税させる制度)、家父長制度を前提とするもので、論外。

第2の理由は、「支払いを確認することが困難」。現在は、白色申告も記帳は義務化されている/記帳していれば、給与等の支払いの確認はできます。

第3の理由は、「恣意的な所得分配」の危険性があると。

これは、公正で妥当な価格認定の問題であって、家族の給与を認めないという理由にはなりません

青色なら「恣意的な所得分配」がなく、白色なら「恣意的な所得分配」の危険性が高いとどうしていえるのか、伺います

(答弁)

所得税法第57条における経費算入の特例にかかる規定については、本年3月28日の参議院財政金融委員会における国税庁長官の答弁において、青色申告者については帳簿等により家計と事業の分離や給与支払の実態を確認することができることから、家族従業員への給与の実額により経費算入を認めている、

これに対し、白色申告者については、資産、ストックの状況まで記帳が求められておらず、同様の確認を行うことが困難であることを踏まえて実額による経費算入を認めていない代わりに、概算的な定額の控除を認めることで配慮しており、両者の記帳の状況に違いがあることを踏まえて、このような制度となっている旨と説明されているものと承知しております。

(質問)

実際は、青色でも記帳だけではわからない。「恣意的」かどうかは、調査しなければわかりません。現に、青色でも白色でも不正の疑いがあれば調査にも入っています。また、経費の金額にしても、青色申告で実施しているように、必要な経費に算入できる金額を規定すれば恣意的な所得分配を防ぐことができる

このように、どの理由も、家族の給与を認めないという理由は成り立たない。

(国連の勧告、政府の税制改正の方向)

資料にあるように、国連の女子差別撤廃委員会から日本政府にたいして「所得税法が自営業者や農業者の配偶者や家族に対する報酬を事業経費として認めないため、女性の経済的独立を妨げる影響がある」として「所得税法の見直しを」勧告

政府も2011年の税制改正大綱、14年度の記帳義務化での検討、第4次男女共同参画基本計画での検討が行われている。

政府の14年度の記帳義務化の中で、個人の白色申告者への記帳義務化に伴う検討内容を伺います。

(答弁)

平成23年度の税制改正において、それまで所得300万円を超える白色申告者にのみ課されていた記帳義務・記録保存義務について、所得が300万円以下の白色申告者についても新たに記帳義務等を課すとする改正が行われ、平成261月から施行されているものでございます。なお、この平成23年度の政府の税制改正大綱においては、白色申告者に記帳が義務化されることに伴い、検討事項も記載されておりまして、

必要経費を概算で控除する租税特別措置をどのように考えるのか?

必要経費についてどのように考えるのか?

白色の記帳水準が向上した場合、専従者控除について、その専従の実態等を勘案し、どのような見直しが可能か?

について、検討されたものと承知しています。

(質問)

政府も必要経費の概算とその額を控除する措置、専従者控除の額の見直しも検討に入っている。

4次男女共同参画基本計画での検討内容を伺います。

(答弁)

国の第4次男女共同参画基本計画についてのご質問ですが、平成2712月にこの第4計画が閣議決定されておりまして、その中で、「施策の基本的方向と具体的な取組」という項目中、「自営業等における就業環境の整備」の中で税制等についての記載もございまして、「商工業等の自営業における家族従業者の実態を踏まえ、女性が家族従業者として果たしている役割が適切に評価されるよう、税制等の各種制度のあり方を検討する」との見解も示されていると承知しております。

(質問)

国の男女共同参画基本計画でも「女性の役割が適切に評価されるよう」検討するとしている。

このように、56条の問題は、国連からも勧告され、政府もやっと税制の見直しの検討を始めた段階。

(税制上の人格権、女性差別の問題)

特に国連の勧告でも、政府の男女共同参画基本計画でも言われているように、この問題は、女性への差別の問題であり、働いている女性の労働が認められない、税制上の人格が認められていないという、基本的人権問題として取り上げられている/業者婦人の方々の長年にわたる切実な要望

その人が働いているという事実、その人格を税制上認めるかどうかを、行政側が勝手に、青色申告なら認めますが、白色申告なら認めませんという「申告の仕方」によって決めることは、やってはならないことではないですか、伺います。

(答弁)

税制上の取扱いについては、行政は法令の規定に基づいて適切に処理すべきものでございますが、ご指摘の事業所得等の申告については、所得税法その他関連する法令の規定に基づいて税の申告をしていただくこととなっておりますので、申告方法として、青色申告と白色申告のどちらかを選択するのは納税者の方に判断になりますし、青色申告が認められるかどうかについては、所得税法等の定める規定に基づき、適法に帳簿や書類の作成及び保存されているどうかかによって、行政側において判断されているものと認識しております。

(質問)

「青色申告を」という政府の言い分について)

政府は、「家族従業員の給与を経費として認めて」というのなら「青色申告をすれば」と。

青色と白色申告では、どちらが原則でどちらが例外規定なのか、伺います。

(答弁)

56条は「事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費については、居住者の所得金額の計算上、参入しない」とすることを定めたものでございまして、さらに、第57

の第1項には、青色事業専従者に関する規定が設けられておりまして、「給与の支払いを受けた場合には、前条の規定に関わらず、その給与の金額で・・・その労務の対価として相当であると認められるものは、・・・その所得金額の計算上必要経費として参入する。」と定められておりまして、第56条の特例規定として定められておるところでございます。

(質問)

青色申告は所得税法ではあくまで例外規定であり、白色申告が原則。例外規定を勧めるというのはおかしい。

市内では、青色申告、白色申告の方がどれくらいいるのか?伺います。

(答弁)

平成29年度市民税・県民税の当初課税では、青色申告者が約73000人、白色申告者が約26000人、合計で約99000人でございまして、事業所得等申告者の約7割の者が、青色申告を選択しているところです。

3万人近い中小業者が青色申告ではなく白色申告を選択している理由は?

(答弁)

青色申告については、正規の複式簿記による記載で、貸借対照表と損益計算書の作成を前提としたもので、帳簿として仕訳帳、固定資産台帳などの帳簿を備え、現金出納、預金、手形、売掛金、買掛金等の記載事項を記載するものでございます。

一方、白色申告については、簡易な記帳の仕方の制度になっており、収入金額や必要経費を記載した帳簿」を作成しなけれぱなりませんが、ここでは「売り上げなどの収入金額」「仕入れ先」「日々の売り上げ」等を記載することにはなっておりますが、記載に当たっては、日々の合計金額をまとめて記載するなどの簡易な方法も認められているものでございまして、青色申告に必要とされる貸借対照表等の帳簿は特に必要とされていないこととなっております。

申告方法として、青色申告と白色申告のどちらかを選択するのかについては、個々の納税者の方のご事情によるものとなりますので、市のほうで判断するのは難しいものでございます。

(質問)

所得税法143条以下に定める青色申告は、納税者側に一定の特典を付与する代わりに、帳簿書類、記録、保存を義務化し、税務署長の裁量を認めた制度/もともと課税庁側の税務執行上の便宜の観点(スピーディに)から考案/納税者を誘導する「特典」は、納税者の立場から見ればどれも当然のものであって「特典」の名に値しないもの

特に問題なのは、課税庁の承認のもとに青色申告を選択することは、課税庁側の監視と支配を受けること/その記帳内容についても課税庁側の指示や干渉にさらされ、課税庁側の事実認定と判断によっては青色申告の承認を取り消されかねない不安にさらされる/実務の運用次第では、納税者側と課税庁との対等な関係=「納税者の権利」を侵害する危険性がある。

このように、税法上、白色申告が原則規定であり、青色申告はあくまでも例外規定(行政の便宜上の理由)/しかも青色は納税者権利の侵害の危険も

青色を進めるのではなく、56条を廃止するなど原則である白色申告についての税改正していくのが本筋

(川崎市の中小企業活性化条例)

川崎市でも「中小企業活性化条例」ができ、その中で「中小企業の経営基盤を強化」するために、特に「経営資源の確保が困難であることが多い小規模企業者の事情を考慮する」と規定。

私の地域でも商店や家族経営をしている小規模事業者は、地域の方々と強く結びついており、お祭りや防災・防犯の点でも、また、地域の雇用を支えるという点でも重要な役割を。

そういう家族経営をしている商店や自営業者は、大変厳しい経営状況の中で頑張っている。特に、今年は10月から消費税増税と台風被害のダブルパンチで、廃業を考えている業者も急増することが予想されます。

こういう業者を応援するのが中小企業活性化条例では?/国や自治体どちらがやるかは別として、小規模業者の税負担を少しでも減らすことも条例でいう「考慮」のうちに入るのでは?

(答弁)

中小企業活性化条例においては、本市は、その役割として、「国、関係地方公共団体、中小企業者及び関係団体等との緊密な連携を図り、中小企業の活性化に関する施策を効果的に実施する」とされているととろでございまして、中小企業の活性化に向けての市の取組は重要なものと考えております。また、税制面におきましては、中小企業に対して、法人税率の軽減や、経営力向上計画に基づき一定の設備を取得した場合の固定資産税の軽減など、制度上、様々な優遇税制が講じられており、税制上も一定の考慮がなされてぃるところでございます。いずれにいたしましても、税制度におきましては、税法の定めるととろにより、公平性が確保されることが大変重要なことと認識しております。

(最後に)

このように、所得税法第56条は、明治時代の家父長制度を残した遺物であり、業者婦人や子どもたちの労働を認めず、差別と偏見に基づく制度。地域経済を支える商店や家族経営を危機にさらし、地域経済の振興を妨げるもの。とりわけ今年は、消費税増税と台風被害で、多くの小規模事業者は廃業の危機に陥っています。

請願にあるように「所得税法56条は廃止すべき」という意見書は、全国で516自治体に/国でも、今年3月に参院財政金融委員会では主税局長、財務大臣がそろって「見直しを検討していく」という答弁です。

以上の点から、わが党は「所得税法第56条は廃止するべき」だと考えます。