むねた裕之
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代表質問―自衛隊への名簿提出は法的根拠なし、中止を!

6月19日、日本共産党を代表して、宗田裕之市議が代表質問を行いました。自衛隊への名簿提出について、市長に質しましたので、質疑を紹介します。

●質問(宗田)

自衛隊への個人情報提供について、市長に伺います。

18歳と28歳の個人情報31500人分の名簿を自衛隊に提供

 川崎市は2017年度から、防衛省の求めに応じて、自衛隊に対し対象者の名簿を提出していることがわかりました。2018年度は、18歳及び28歳を対象に、それぞれ12158人、19335人、計31493人の個人情報を提出しているとのことです。

名簿提出は県内33市町村のうち5市町のみ、葉山町は中止表明

神奈川県内では、33市町村のうち閲覧にとどめているのは28市町村であり、名簿を提出しているのは川崎市、横須賀市など3市2町にとどまります。葉山町は法令を精査して名簿提出を中止しました。他の市町村の対応からしても川崎市の対応は異例です。

自衛隊法97条、施行令120条は法的根拠にならない

 名簿提出の法的根拠についてです。市は、自衛隊法第97条第1項が「市町村長は・・自衛隊募集に関する事項の一部を行う」と定めていることを根拠としています。しかし、この法律は、募集事務を具体的に定めるものではありませんし、ましてプライバシーや個人情報保護に抵触する恐れのある情報提供の根拠とはなりません。

また、同法施行令第120条が「防衛大臣は・・必要な報告または資料の提出を求めることができる」と定めていることも根拠としてあげています。しかし、この施行令の報告・資料提供要請は、募集業務などが円滑に行われているかどうか確認する目的であり、個人情報を提供する根拠とはなりませんし、これに応える義務もありません。

台帳法では、住民基本台帳は原則非公開

さらに、川崎市個人情報保護条例で、個人情報の利用や提供が制限されていますが、第11条第1項で「正当な行政執行に関連があるとき」は除外されることも根拠にあげています。しかし、除外根拠とされる法令の一つである「住民基本台帳法」は、「閲覧」は認めていますが、名簿の提出までは認めていません。しかも、2006年の改正により、閲覧請求についても、それまでの閲覧自由の原則から原則非公開に改めています。この改正の経緯からして、同法が明文の根拠のない名簿の提供を容認していると解することはできません。

自衛隊法、施行令は名簿提出の根拠にならない―提出の根拠は何か?

このように、自衛隊法第97条、同法施行令第120条及び川崎市個人情報保護条例の除外規定のどれをとっても、名簿提出を正当化する根拠とはなりません。それでもなお川崎市が自衛隊に名簿を提出するという根拠は何ですか、伺います。

◎答弁(市長)

自衛隊法、施行令、個人情報保護条例などを根拠に総合的に判断

紙媒体の資料提出につきましては、自衛隊法第97条第1項、地方自治法施行令第1条、自衛隊法施行令第120条の規定に基づく防衛大臣からの依頼、個人情報保護条例第11条第1項第2号、及び募集事務に関する住民基本台帳事務に係る総務省課長通知を根拠に、総合的に判断し、実施しているところでございます。

●質問(宗田)

法的根拠がないのに、なぜ「総合的に判断」すると実施できるのか?

 名簿提出の法的根拠について各法令に根拠がないことを指摘しましたが、それへの反論はなく、同じ法令を根拠に「総合的に判断して、実施している」という答弁でした。個々の法令に根拠がないのに、なぜ、「総合的に判断」すると実施できるのか、伺います。

県内9割の自治体が「法的根拠はない」「台帳法の規定を超えている」

県内9割の自治体は、「住民基本台帳法に「資料提供」という決まりはなく、名簿提出は台帳法の規定を超えている」,「台帳法は原則、非公開」など法的根拠はないとして、名簿提出は行っていません。名簿提出を実施していた葉山町も「法令解釈に不明瞭な点がある」として、2019年度から提出を取りやめ、閲覧に変更する考えを示しました。川崎市もこのような立場にたって、提出はやめるべきです、伺います。

警察や消防には名簿提出はしないのに、なぜ、自衛隊にだけ?

 県内の自治体では、名簿提供を実施しない理由として「他の閲覧者との公平性を保つため」「自衛隊だけ特別扱いすることはできない」ことをあげています。警察や消防の募集には、名簿提出はしないのに、なぜ、自衛隊にだけ提出するのか、伺います。

◎答弁(市長)

関係法令等を根拠に法定受託事務、自衛隊の事務の効率化から判断

紙媒体の資料提出につきましては、関係法令等を根拠に、法定受託事務であることを踏まえ、自衛隊からの依頼や事務の効率化など、本市において総合的に判断したものでございます。

次に、警察や消防の職員募集に係る他団体への資料提出につきましては、根拠法令がなく、現在のところ依頼もございません。

●質問(宗田)

「法定受託事務」-石破大臣「答える義務はありません」と答弁

「総合的に判断した」理由の一つに、「法定受託事務であること」という答弁でした。しかし、03年4月衆院特別委員会で石破大臣は、法定受諾事務に関して「私どもが依頼しても、答える義務というのは必ずしもございません」と答弁しているように、あくまで依頼にすぎず市町村長にこたえる義務はありません。

「自衛隊の依頼や事務の効率化」を理由に名簿提出は正当化できない

 「自衛隊の依頼や事務の効率化」との理由も上げられました。しかし、答える義務もなく、9割の自治体が法的根拠、個人情報保護の観点から提出をしていないのに、「自衛隊の依頼や事務の効率化」の理由で名簿提出を正当化できるのか、伺います。

「法的根拠ある」というなら各法令について具体的な理由を?

 名簿提出の法的根拠について、「関係法令を根拠に」しているという答弁でした。しかし、自衛隊法97条は、募集事務を具体的に定めているわけではなく、施行令第120条は、募集事務が円滑に行われているかを確認する目的で、どちらの法令も名簿提供の根拠にはならないこと。住民基本台帳法では、閲覧は認められていますが、原則非公開に改正され、名簿提出を容認していると解されず、根拠はないことは明らかです。実際、葉山町では「法令解釈に不明瞭な点がある」「提出しないことが、現行法令の解釈の明瞭な範疇と考えている」と名簿提出を中止する考えを示しました。座間市でも「自衛隊法は、名簿提出を明確に定めていない」として、名簿提出はしていません。これだけ具体的に根拠がないことを述べ、他の自治体も根拠がないと見解を述べているのに、「根拠がある」というのであれば、個々の法令について具体的な理由を伺います。

◎答弁(市長)

関係法令や個人情報保護条例との整合性などを総合的に判断

これまでも御答弁いたしましたとおり、関係法令や個人情報保護条例との整合性などを総合的に判断し、資料提出を行っているところでございます。

●意見(宗田)

法的根拠の具体的な理由を聞いたのに一切具体的な答弁なし

法的根拠の具体的な理由や総合的判断をただしたのに対して、一切具体的な答弁はなく、明らかにされませんでした。

これまでの質疑で、法的根拠がないこと、住民基本台帳法の範囲を超える恐れがあること、「総合的に判断した」とする、どの理由も提出の根拠にはならないことを明らかにしました。

名簿提出を毎年繰り返されれば膨大な個人情報が自衛隊に

さらに川崎市の名簿対象者は、31500人にも及び、その個人情報は本人が知らない間に使われ、また提供された後にどのように取り扱われるかも不明です。毎年毎年繰り返されれば、膨大な個人情報が自衛隊に蓄積される恐れがあり、その利用に関する実効的な歯止めは事実上存在しません。「個人情報に係る基本的人権の侵害を防止するための措置を講ずるとともに、あらゆる施策を通じて個人情報の保護に努める」とした川崎市個人情報保護条例にのっとり、川崎市は市民の個人情報を守る立場に立つべきです。

自衛隊への名簿提出を中止すべき

以上の点から、川崎市は、自衛隊への名簿提出を中止すべきことを強く要求します。